2019年8月2日,東京拘置所において1名,福岡拘置所において1名,計2名の死刑が執行された。その中には再審請求中の者も含まれている。2018年10月の就任以降,山下貴司法務大臣による2回目の執行であり,2012年12月に第2次安倍内閣が発足して以降,死刑の執行は16回目で,執行人数は合わせて38名となる。
死刑制度は,罪を犯した人の更生と社会復帰の観点から見たとき,その可能性を完全に奪うという問題点を有しており,また,誤判・えん罪による生命侵害という取り返しのつかない危険を有するものであるから,死刑の執行についても,単に,犯罪に対する応報と捉えるのみならず,それ自体,人の生命に関わる極めて重大な人権問題を内包するものと捉える必要がある。事実,免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件という4件の死刑判決が再審により無罪となったことからも明らかなとおり,死刑制度は,えん罪であった場合に死刑が執行されれば,無辜の生命を奪うという取り返しがつかない重大な問題を抱えている。
当会は,これまで,政府に対し,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の存廃について,国民が十分に議論を尽くし意見を形成するのに必要な情報を広く国民に公開し,国民的議論を行うよう繰り返し求めてきた。
それにもかかわらず,政府が,国民的議論のための情報開示を十分に行わないまま死刑の執行を続けることは,死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を明らかに欠いたものであり,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討と見直しをする必要性を軽視したものと言わざるを得ない。
とりわけ,死刑が執行された者の中には再審請求中の者も含まれるが,再審請求中に死刑を執行することは,当該再審請求者に対し死刑を適用すべきか否かという点も含め,誤判・えん罪の可能性を審査する機会を奪うことにほかならず,裁判を受ける権利(憲法32条),適正手続保障(憲法31条)との関係で重大な問題を孕むものである。
よって,当会は,政府に対し,今回の死刑執行について断固抗議するとともに,死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であることを踏まえ,死刑制度廃止が国際的潮流となっている事実を真摯に受け止め,死刑の執行を停止した上で,死刑制度の犯罪抑止効果,死刑囚の置かれている状況,死刑執行の選定基準やプロセス,死刑執行の方法,誤判・えん罪と死刑の関係など死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃に関する国民的議論を開始するよう改めて強く求める。
2019年(令和元年)8月19日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鎌 田 健 司