仙 台 弁 護 士 会
会 長 鎌 田 健 司
当会は、令和元年台風第19号被害に関して生じている以下の当面の課題等について緊急に提言を行うとともに、今後、宮城県及び県内各市町村、その他関係各機関と共に、被災者支援が迅速・適切・公平に実現されるよう協働していく所存である。
1 総論(被災者一人ひとりを見守る支援活動の必要性)
東日本大震災では、在宅被災者を中心として、生活再建・住宅再建・地域再建が不十分なまま、支援の目が行き届かずに現在に至った高齢者等の世帯が多数おられる。この背景には、情報格差等各種格差や、自治体の物的・人的資源の不十分さがあり、支援団体の連携が不十分であったり、あるいは、それまでの支援制度・運用が画一的であったこと等の問題点が横たわっている。
今回の台風第19号の被災地においては、東日本大震災での在宅被災者問題・孤独死等の問題に直面した経験を踏まえ、自治体・専門家団体・民間支援団体等が、連携して、被災者一人ひとりの復興に向けて活動をする必要がある。
例えば、宮城県において、「被災者見守り・相談支援事業」を実施する場合、「被災者生活再建ノート」「弁護士会ニュース」の活用を提案するなど、救助段階から復興・復旧段階に向けて、被災者一人ひとりが生活再建、住宅再建、地域の復興を果たせるよう、支援に携わる者が連携して支援する必要がある。
2 宮城県に対する提言(マンパワー不足の補充、被災者の所在等の把握、支援制度の適切な策定、切れ目のない被災者支援等)
被災地では支援の中心的担い手である行政職員のマンパワー不足が深刻であり、災害救助法に基づいて提供されるべき物資が被災者に行き届いていない現実があると聞く。
そこで、まず県は、在宅被災者を含めた被災者の所在や数の的確な把握に努めることが必要である。その上で、県が先頭になって、被災実態に即した各自治体への人員の手配(外部への受付業務委託等に関する柔軟な運用改善も含む)を行い、現行制度のままでは救済しきれない被災者にも十分に支援が行き届き地域間格差も生まれぬように、独自の支援制度を適切に策定することが必要である。
また、「対策パッケージ」(令和元年11月7日非常災害対策本部会議参照)にも記載のある「切れ目のない被災者支援」を実現させるためには、被災者の見守りや相談支援事業制度が存分に活用されることが必要であり、当会としてもその活用に必要な協力体制を十分に整えていく所存である。さらに、民間ボランティアの支援が円滑かつ効率的に被災者に提供される必要があるところ、そのためには、個々のボランティアの手配や、ボランティア間の支援結果・経過の引継ぎが円滑・迅速に進められるよう、県・市町村の職員の派遣体制が早急に整えられることが求められる。
3 宮城県及び県内各市町村に対する提言
(1)半壊以下の被害家屋に対する公費解体等の支援の実現
今回の台風被害では半壊以下の家屋が多数に上ると想定されるところ、生活再建支援金を利用するなどして生活・住居の早期再建を支援するためには、半壊以下の被害家屋についても早期に公費解体を実現する必要が生じている。この点、国も対策パッケージの中で半壊した家屋についても公費解体の対象にすることなどを盛り込んでいるほか,半壊被害の世帯についても仮設住宅入居を認める方針を示しているが、被災者の希望に応じて、かかる公費解体や仮設住宅への入居が速やかに実施されるともに、解体を希望しない半壊家屋及び一部損壊家屋の被災者に対しても、生活再建に向けたきめ細かい施策を策定・推進するよう提言する。
(2)きめ細やかな住家被害認定の実現
今回の台風被害では、多数の家屋の浸水被害が発生した。今後、その被害認定が行われ、当該認定を前提とした公的支援が行われることとなる。しかし、例えば床上浸水1m未満を半壊の基準とする画一的な線引きでは被害の実態を正確に反映できず、不当に公的支援の対象から外れる被災者を発生させる危険がある。そこで、少なくとも二次調査においてはきめ細やかな、被災地の被害状況に即した住家被害認定が実現されるとともに、外観目視で一部損壊とされた場合には、新たに創設された準半壊の認定のため二次調査を義務化すること、及び、被災判定につき自治体の実態にばらつきを生じさせないことが必要である。
(3)土砂撤去における遡及適用の実現
今回の台風被害では宅地内や街中に土砂、瓦礫、家財等が堆積するといった被害が広く発生したところ、被災者の生活の早期再建及び二次災害の防止を図るため、災害救助法の活用や特例措置を設けるなどの方法によって、迅速に、公費による土砂等撤去を実施すべきである。また、被災者支援の公平を確保するため、既に自らの費用で土砂等撤去を実施した被災者についても、現物支給の原則に固執せず、公費撤去の趣旨・理念より、自費で賄われた土砂等撤去について、遡及的に費用を補助する仕組みも必要である。
(4)既に賃貸借契約を締結した場合のみなし仮設の遡及適用の実現
今回の台風被害で住家に被害を受けた被災者の中には、罹災証明発行を待たずに民間賃貸物件を賃借し生活再建を開始した方も相当数いる。これらの方の賃借物件については、現在、被災地において、みなし仮設としての取扱いとはならず、また、賃料補助もできない仕組みで運用されているため、被災住民間に格差が生じているとともに、被災自治体も住民対応に苦慮している。
東日本大震災の際は、みなし仮設住宅の運用開始前にすでに民間賃貸住宅を賃借した被災者につき、遡及してみなし仮設として扱った運用実績があり、また、それが被災者の支援の公平の理念にかなうものであるから、今回の台風の被災者についても、当然同様の運用がなされてしかるべきである。
(5)住宅の応急修理制度の遡及適用・事後救済の実現
同じく住宅の応急修理制度についても、自らの費用で修理を終えた被災者が公平に同制度を利用できるよう、現物支給の原則に固執せずに、修理・代金支払い後でも同制度の利用ないしは補助金交付による支援がなされることが必要である。
石巻市では既に、自らの費用で修理を終えた被災者に対しても補助金を交付する独自の制度を実施しているところ、被災者支援の公平性を確保する観点からも、上記支援がなされることが必要である。
(6)応急修理制度と仮設住宅入居の併用
応急仮設住宅は住宅の応急修理と併給できない運用があるが、これは応急修理利用により生活環境が回復されるとするのが建前であるところ、併せて応急仮設住宅を提供するのであれば救助重複になるという考えに基づくと思われる。しかしこの度の台風第19号といった大規模災害の被災住家で応急修理を利用したからといって、応急仮設住宅と同等の生活水準まで回復できる状態になるとは考えにくく、上記運用方針は現実にそぐわない。
そもそも、応急修理を利用するとしても、修理の間、被災者に対して安定的な生活環境を確保する必要があり、それには応急仮設住宅を供与するのが合理的であって、被災者の生活再建にも資する。
そこで、現在、応急仮設住宅に入居した被災者であっても、個別事情に応じ、応急修理制度を利用できるよう、運用改善を求める。
以上