2019年6月25日、最高裁判所第1小法廷は、いわゆる大崎事件第3次再審請求審において、検察官の特別抗告に対して、鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却決定を取り消し、再審請求を棄却する決定(以下、「本決定」という。)を言い渡した。
本決定は、検察官の特別抗告には理由がないとしながらも、これを取り消さなければ「著しく正義に反する」として、職権により再審請求を棄却したものである。
本決定については、刑事司法制度の基本理念を揺るがしかねない重大な問題があるといわねばならない。
刑事訴訟法において、特別抗告に理由がない場合に最高裁判所が職権で自判できるか否かについては明文の定めはないが、判例では、特別抗告についても同法411条の準用があり、自判は許されるとされている。
しかし、再審制度は誤った有罪の言い渡しを受けた請求人を救済するための制度であり、不利益再審が禁止され、白鳥・財田川決定により確立した「疑わしいときは被告人の利益に」の原則が適用されるものである。とすれば、再審開始決定を覆す方向での職権発動は行われるべきではなく、抗告審あるいは特別抗告審において、理由なしとしながら、いったん開始決定を受けた請求人に不利益な自判を職権でなすことは許されないものと解されるべきである。
すなわち、検察官の特別抗告に理由がないとする以上、最高裁は、自判せず再審開始決定を確定させるべきだった。その上で、事実認定の審理については再審公判にゆだねるべきであったものである。
大崎事件は、事件発生から40年近くが経過し、請求人原口アヤ子氏はすでに92歳という高齢である。既に2度の再審開始決定と、1度の検察官抗告の棄却決定を受けている同氏の救済のためには、速やかに再審が開始される必要がある。
当会は、今般の最高裁の再審請求棄却決定に対して強く抗議する。それとともに、再審制度を誤判と人権侵害から無辜を救済するための制度として正しく機能させるためには、再審開始決定に対する検察官の抗告権・特別抗告権の制約などの法改正が必要であると考えることから、かかる法改正に向け今後も尽力する旨の決意を表明するものである。
2019年(令和元年)12月18日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鎌 田 健 司