東日本大震災から9年という時間が経過した。政府は、2011年7月策定の「東日本大震災からの復興の基本方針」において復興期間を2021年までと定め、宮城県も2011年11月策定の「宮城県震災復興計画」において復興期間を2021年までと定めた。このことから、2020年を「復興の最終年度」とする言説や、「ポスト復興」、すなわち、2021年で復興が完了することを前提とする議論が近時増加している。
しかし、被災者の抱える課題は今なお多く存在しており、被災者一人ひとりの抱える課題が解決するまで震災復興が完了することはない。
現在においても、被災時からの課題(住まいや生活、生業の再建、在宅被災者問題、加算支援金未申請などの課題)を解決できていない被災者が多数存在する。これら課題を克服するために、当会は、在宅被災者を含めた被災者のあるべき生活再建支援策として、「災害ケースマネジメント」の構築を提唱してきた(2019年10月12日に日本に上陸した台風19号(令和元年東日本台風)による被災者に対しては、当会は、東日本大震災の教訓を活かし、「災害ケースマネジメント」を実践すべく、戸別訪問等によりアウトリーチによる支援活動を実践しているところである。)。
また、生活再建の場として提供された災害公営住宅については、復興が進む中にあっても、管理運営上の問題が指摘され、何より、報道によれば、岩手、宮城、福島の3県に整備された災害公営住宅で孤独死した人が242人に上るとされており、孤独死対策が喫緊の課題となっていることに留意されるべきである。
さらに、高齢者や低所得者の中には、生活の再建が十分進んでいない中で災害援護貸付の償還が開始したことと相まって、被災前よりも一層深刻な経済的困難に陥る被災者も存在している。
その他、当会発出の2019年12月18日付「加算支援金申請期限延長と未申請世帯の戸別訪問による調査等を求める会長声明」にもあるとおり、加算支援金未申請世帯が未だ多数存在することなども、被災時から残されている課題の一つである。
そして、原発事故による被害は未だ収束しておらず、適切な被害回復がなされているとは言いがたい状況にあって、あと1年で原発事故から10年を迎えることとなる。いわゆる原賠時効特例法により、原発事故に関する損害賠償請求権の消滅時効期間が10年間とされたものの、広範な損害把握についての司法判断も確定していない中で、被害者が被った損害が時効で切り捨てられるような事態は断じて許されない。
以上のように、東日本大震災から9年を経過した現在においても、被災時から存在する諸課題と、復興過程において顕われてくる諸課題とが混在しているのが実情であり、これら被災者一人ひとりの抱える諸課題が解決するまで震災復興が完了することはない。
震災直後から「人間の復興」の視座の下、被災者に寄り添いながら震災復興支援を続けてきた当会としては、震災復興期間を形式的に定める風潮に警鐘を鳴らし、復興の完了を意識する国政・県政の仕組みから被災者が取り残されることのないよう、震災復興支援の必要性を今後も発信し続けるとともに、被災者一人ひとりの抱えている諸課題の克服に向け、引き続き法的支援による支援活動に邁進する所存であることをここに宣言する。
2020年(令和2年)3月12日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鎌 田 健 司