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新型コロナウイルス感染症に対応した債務減免制度の整備を求める提言書

2020年04月28日

仙台弁護士会

会長  十 河   弘

第1 提言の趣旨
   当会は,新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者の生活及び事業の維持・再建を支援する方策の一環として,下記のとおり提言する。

 1 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者について,既存の法的手続によることなく,簡易・迅速な手続で債務の減免を可能とする制度を整備すること。
2 当該制度は,新型コロナウイルス感染症の影響を受け,生活及び事業の再建のために既往債務の減免が必要とされる個人債務者が幅広く利用可能なものとすること。
 3 当該制度は,以下の内容を含むものとすること。
 ① 個人信用情報機関に事故情報として登録されないこと。
 ② 少なくとも「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」と同程度の自由財産の保有が認められるものであること。
 ③ 保証債務の履行が原則として免除されるものであること。
 ④ 弁護士等の専門家の支援を無料で受けられるものであること。
 
第2 提言の理由
 1 新型コロナウイルス感染症の拡大による深刻な影響
  ⑴ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(以下「コロナ感染症」という)の急速かつ大規模な拡大により,世界保健機関(WHO)は,本年3月11日,世界的大流行を意味するパンデミックの状態にあると宣言した。世界各地で人類史に残るほどの多数の感染者,死者の発生が今なお続いており,極めて深刻な事態となっている。
    日本各地においても,急速な感染の拡大が生じており,本年4月27日時点で,感染者は1万3385名,死者は351名(いわゆるクルーズ船乗客を含む)に達している。コロナ感染症に対する有効な治療法の確立には時間を要するとされ,その収束は全く見通しがつかない厳しい状況にあり,今後も,感染者,死者が増加することが懸念されている。
  ⑵ 国は,これを受けて,本年4月7日,新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき,7都府県を対象として緊急事態宣言を発出し,同月16日には,その対象を全国47都道府県に拡大するに至った。国及び地方自治体は,緊急事態宣言に基づき,コロナ感染症の拡大防止を目的として,広く国民に対し,不要不急の外出を行わないこと,人が集まっての飲食やイベント等について自粛すること,テレワークによる勤務を行うこと等を呼びかけるとともに,休校措置をとるなどして,人と人との接触を避けることを強く求めている。
  ⑶ このため,企業,個人は,その社会経済活動を自粛・制限せざるを得ない状態にあり,飲食,観光,交通といったサービス産業のほか,各種製造業など極めて広範な業種において急激な売上の減少等が生じ,中には倒産に至る企業も発生している。コロナ感染症の経済への影響はリーマンショックを超えるといわれており,我が国の企業,個人事業主の多数が経営上の重大な危機に直面している。
  ⑷ このような社会経済の混乱は,個人の生活にも深刻な影響を及ぼしており,就業先の経営危機や倒産等に起因して減収や失職を余儀なくされる者が現に多数生じており,今後さらに増加していくことが強く懸念される状況にある。
  ⑸ このように,コロナ感染症による影響は極めて深刻な事態となっており,その収束についても全く見込みが立たない状況となっている。

2 コロナ感染症に対応する債務減免制度の整備の必要性
 ⑴ 以上のような状況のもと,コロナ感染症の影響により生活や事業の基盤が毀損した個人・個人事業主について,生活や事業の維持・再建を図るための方策をとることは,まさに喫緊の課題となっている。
特に,コロナ感染症の影響を受けた個人債務者(個人事業主を含む。以下同じ。)については,既往債務の存在がその生活及び事業の維持・再建の大きな障害となっている場合が少なくない。
そのため,コロナ感染症の影響を受けた個人債務者について,不利益を受けることなく弁済猶予・条件変更を受けることを可能とする制度の構築,生活及び事業の維持・再建のためのさらなる給付等,まずは国民の生活や事業が困難に陥ることをできる限り防止するための支援策が速やかに講じられるべきである。
 ⑵ しかしながら,これらの支援策が講じられたとしても,コロナ感染症の甚大な影響に鑑みれば,既往債務の弁済が困難となる個人債務者が多数生じることは,残念ながら避けられないと考えられる。現に,コロナ感染症の影響により破産等の倒産手続の利用を余儀なくされる事業者が実際に生じており,今後その数が飛躍的に増加すること,それに伴い個人債務者の倒産も急増することが強く懸念される。
コロナ感染症の影響により既往債務の弁済が困難となった個人債務者が債務の減免を受けるためには,現行制度のもとでは,原則として破産や民事再生等の法的倒産処理手続の利用が必要となる。しかしながら,これらの既存の法的倒産処理手続を利用した場合,個人信用情報機関に事故情報として登録され長期間与信を受けることが困難となること,保証人への履行請求がされることなどにより,その生活や事業の再建に大きな支障が残る場合が少なくない。
さらに,法的倒産手続をとる者が急増すれば,我が国の経済活動のさらなる停滞という悪循環が生じることが強く懸念される。
そもそも,コロナ感染症は自然由来のものであり,その影響により既往債務の弁済が困難となったとしても,債務者に帰責性はない。
このような個人債務者について,既存の法的倒産処理手続をとることなく債務の減免を可能とする制度を整備することは,国民の生活や事業の維持・再建に資することはもとより,我が国経済の再活性化にも資するものである。
コロナ感染症に対応した債務減免制度を速やかに整備する必要性は極めて高い。

 3 コロナ感染症に対応する債務減免制度に求められる内容
 ⑴ コロナ感染症の影響は,我が国全体はおろか,世界全体に及んでいるという点で極めて甚大なものであり,しかも,その影響も極めて長期間に及ぶことが想定されるものである。それに伴い,既往債務の弁済が困難となる個人債務者も,全国的かつ大量に生じる懸念がある。
   そのような個人債務者一人一人の生活及び事業の維持・再建を実効的に行うためには,何より,債務の減免が簡易・迅速な手続で実現できるものとされるべきである。
⑵ また,制度利用者の要件として,「支払不能(のおそれ)」の存在を厳密に要求した場合,全国的かつ大量に生じる懸念がある個人債務者一人一人の生活及び事業の維持・再建を実効的に行うことは期し難い。
コロナ感染症は個人債務者に帰責性がないという点にも鑑み,生活及び事業の維持・再建のために債務の減免が必要と認められる個人債務者について,幅広く利用可能なものとされるべきである。
⑶ なお,自然災害の被災者については,「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「自然災害ガイドライン」という)が存在する。
   自然災害ガイドラインでは,①個人信用情報機関に事故情報として登録されない,②自由財産として500万円上限とする現預金等の保有が認められる,③保証債務の履行が原則として免除される,④弁護士等の登録支援専門家の支援を無料で受けられる等といった,債務者の生活や事業の維持・再建を図るうえで有用な制度設計がされている。
自然災害ガイドラインは,自然災害という帰責性のない事態によって既往債務の弁済が困難となった個人債務者の生活及び事業の再建を支援することを目的とした制度であるが,コロナ感染症も,債務者に帰責性がないという点では,自然災害の場合と同様である。したがって,コロナ感染症に対応する債務減免制度においても,自然災害ガイドラインの上記①〜④の点は取り入れられるべきである。
 
 4 結語
コロナ感染症の影響は日々深刻化し,すでに多数の個人債務者の既往債務に関する問題も生じており,早急な対応を必要とする段階に至っている。
よって,コロナ感染症の影響を受けた個人債務者の生活及び事業の維持・再建を支援する方策の一環として,コロナ感染症に対応した債務減免制度を速やかに整備することを提言するものである。                    

以 上

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