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台風19号被害における復旧・復興に向けた提言書

2020年05月21日

宮城県丸森町 御中

2020年(令和2年)5月21日

仙 台 弁 護 士 会

     

会 長  十 河   弘

宮城県建築士事務所協会

会 長  高 橋 清 秋

宮城県サポートセンター支援事務所

所 長  鈴 木 守 幸

第1 はじめに
   令和元年10月に発生した台風19号により,甚大な被害を受けた貴町に対し,改めてお見舞いを申し上げるとともに,貴町職員の献身的な活動に敬意を表します。
   私たちは,貴町の住民の方の要請を受け,微力ながら相談活動による支援をして参りました。
   上記相談活動の中で把握した実態に基づき,下記のとおり意見を申し上げます。

第2 意見の趣旨
 1 住まいの再建の進め方について,個々の被災者の実情に応じた個別の情報提供を行うにあたり,専門家を活用することを提案します。
 2 被災者生活再建支援金(基礎)の給付申請期間の延長も視野に,住民の実情を注視していただくことを提案します。
 3 公費解体申請期限の再延長及び自費解体費用償還制度の再開を提案します。
 4 貴町が創設した住宅再建支援給付金の増額,及び国の事業による再建の道を確保することを提案します。

第3 意見の理由
 1 専門家を活用した個別の情報提供のご提案
貴町の「(仮称)丸森町復旧・復興計画(中間案)」(以下,「復興計画(中間案)」といいます。)14頁中の表17によると,貴町が「住まいの再建意向」について照会し回答をした188件中,「わからない」が29件,「その他・無回答」が79件,合計で108件の回答者が,住まいの再建意向を回答できない状態となっております。
 私たちの相談活動においても,多くの被災者の方が住まいの再建方針が定められない状況にあることを目の当たりにしており,上記回答結果は私たちの肌感覚とも一致するものです。
 わが国の被災者支援制度は複雑・多岐にわたります。また,被災者各自の置かれた経済的・社会的事情もそれぞれであり,被災者の被害実態もまちまちです。
住まいの再建を検討するにあたっては,修繕がそもそも可能か,仮に可能だとしてどの程度の費用を要するか,あるいは新たに建築する場合にはどの程度の費用を要するかについてそれぞれ把握する必要があり,建築士をはじめとする建築の専門家によるアドバイスが必要です。
同時に,再建資金の目処を立てるためには,様々な支援制度・融資制度について,被災者各自の状況に応じた情報提供が必要です。被災者各自の状況に応じた情報提供を行うためには,個々の被災者の資産や収入の把握に加え,債務の整理などが必要な場合もあります。弁護士をはじめとする法律の専門家による個別のアドバイスも必要です。
さらには,被災に伴い福祉による支援を必要とする被災者も存在します。特に,自ら行政に申請することができない事情を抱えていらっしゃる被災者にはアウトリーチによる支援が不可欠です。被災された方を,貴町の福祉部門や貴町が今般立ち上げられた地域支え合いセンターに繋ぐためには,社会福祉士をはじめとする福祉の専門家による情報提供が効果的です(特に,在宅被災者にはその傾向が顕著です)。
こういった様々な専門家よる個別の(すなわちオーダーメイド型の)情報提供がされることによって,住まいの再建の意向を示せないでいる被災者の多くが,具体的な再建方法を回答できる状況になることが期待できます。
 また,住民の方の了解を得ることができれば,相談を担当した専門家から貴町に各被災者の実情を提供することも可能です。すなわち,住まいの再建方針が定められない理由を貴町において正確に把握する中で,貴町は復旧・復興計画を策定することが可能になります。

 2 アウトリーチによる情報提供・基礎支援金の申請期限延長のご提案
「復興計画(中間案)」17頁において指摘されているとおり,被災者生活再建支援制度は,被災者にとって生活資金の確保に資する重要な支援制度です。
しかしながら残念なことに,東日本大震災では,申請期限を徒過してしまい基礎支援金の受給に至らなかった被災者が少なからず存在しました。被災者の中には,自ら申請できない事情を抱えていらっしゃる方も存在します。いわゆる「申請主義」による弊害が,再び繰り返されてはならないと考えています。
また,今般の新型コロナウイルスによる緊急事態宣言により,被災者は生活再建に向けた情報提供を受けにくい状況に陥っております。
私たちは「誰一人取り残さない」という本計画の理念に深く共鳴しております。
基礎支援金の受給が可能であるにも関わらず申請期限を徒過してしまう被災者が存在しないか丁寧にフォローするとともに,申請期間を徒過する被災者が存在する可能性がある場合には,被災者生活再建支援法施行令4条4項に基づいて,延長するよう宮城県に働きかけることも念頭に置きつつ,住民の状況を注視していただきたいと考えております。

 3 公費解体の申請期限延長のご提案
貴町は,公費解体申請の期限を本年3月末までとされたものを本年6月末まで延長されました。
申請期限を延長された貴町の判断は,被災者に寄り添ったものであると受け止めております。
もっとも,住み慣れた自宅を解体するかという判断は,住まいの再建方針が定まった後にはじめて可能になります。
私たちが相談を受けた世帯に限っても,それぞれが持つ再建資金の中で移転して住宅を再建するのか,それとも被災元地で住宅を修理して生活するかを判断できずに迷っている方が多数おられました。そして,判断しきれない理由は,資金面のものに限られません。今後貴町が実施する河川復旧の内容を把握してから居住先を定めたいとの相談も少なからずありました。
   これらの悩みを本年6月末までに全ての住民が解消することは,極めて困難ではないかというのが私たちの懸念です。
   他方で,現在のところ,災害廃棄物処理事業を所管する環境省では申請期限を設けておりません(そのため,公費解体の申請期限を本年6月以降に伸長している被災自治体も存在しております)。
   なお,自費解体の場合の費用償還は既に受付を終えていると貴町のホームページで広報されておりますが,相続登記未了世帯も含め自費解体のニーズは現在も存在しております(貴町においても,町民の方からの問い合わせなどを通じて把握されているものと拝察しております)。
   よって,公費解体の申請期限を再延長及び既に受付を終了したと広報されている自費解体費用償還制度を再開されることを提案いたします。

 4 国による支援制度の活用等のご提案
貴町は,被災者が町内で住宅再建することを支援するために独自の住宅再建支援制度(最大150万円)を創設されました。厳しい財政状況の中でのご提案であると受け止めております。
 しかしながら,この独自支援制度は,防災集団移転促進事業にて受けられる支援との比較では手薄なものと言わざるを得ません。
 すなわち,防災集団移転促進事業では被災者は,①被災した土地の買い上げ,②移転先の造成費,③引越費用(1世帯あたりの限度額97万5千円),④住宅建設補助費(住宅ローンの利子補給として1世帯あたりの限度額421万円)の支援を受けられます。
このうち,防災集団移転促進事業によらずに,自力で造成する場合の費用(すなわち②移転先の造成費に対応するもの)は一概には決められませんが,概ね1㎡あたり12,000円~15,000円程度を要するとされています(なお,令和2年4月に国土交通省都市局都市安全課が発表した「防災集団移転促進事業の運用ガイダンス(案)」では,1㎡あたりの単価として15,800円を補助限度額としています)。防災集団移転促進事業における住宅敷地面積の平均面積330㎡(100坪)を念頭に試算すると,自力再建の場合,被災者は造成費用のみでも各世帯で400万円程度の負担を余儀なくされます。
また,被災した土地は容易には換価できないため,住宅再建の資金を確保することが難しいとの相談事例もございました。
 私たちが相談を受けた世帯でも,防災集団移転促進事業が利用できれば,地域コミュニティーを維持したまま住まいの再建を果たすことが可能な世帯が,同事業を利用できないことによって,自力再建を断念せざるを得ない事例を把握しております。
貴町が創設した独自支援制度(上限150万円)では支援が不十分な被災者が存在することを指摘せざるを得ません。
一方で,貴町が指摘されるとおり,防災集団移転促進事業による住まいの再建には相応の時間を要します。仮設住宅の供与期限とされる2年以内に防災集団移転促進事業を遂行することが難しい場合が想定されることも,貴町が指摘されているとおりです。
しかしながら,再建の時間軸は住民の方が選択すべき事柄ともいえます(もっとも,私たちが相談を受けた地域では,同事業を希望する住民の合意形成や移転先候補地がほぼ確定している事例が存在します。一方で,現地再建を希望する世帯と移転による再建を希望する世帯が混在する地域において,災害危険区域の指定をどのようにするかという課題が存在しますが,東日本大震災においていわゆる「まだら指定」の前例があり,東日本大震災発生当時との比較で時間的・制度的な制約が一定程度解決しております)。
また,仮に2年以上の時間を要するとしても,過去に発生した特定非常災害では,仮設住宅の供与期限は,被災者の実情に応じて順次延長されております。住まいの再建に時間を要する被災者が存在することを,貴町から県に丁寧に情報提供されれば,仮設住宅の供与期限を延長することは可能です。
 よって,貴町におかれましては,オーダーメイド型の情報提供に基づいた個別の意向確認を進め,これらの意向確認の結果に立脚した貴町独自の住宅再建支援制度の拡充を検討されるとともに,国の事業(防災集団移転促進事業に限らず,がけ地近接等危険住宅移転事業も含みます)による再建の道を確保されることを提案します。

以上

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