はじめに、新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の事態に際して、高齢者・障害者の方の生命を守るために、日夜ご尽力されている高齢者・障害者施設の関係者の皆様に深く敬意を表する。
他方、今般の新型コロナウイルスの感染拡大により、高齢者・障害者施設において、入所している利用者とその家族、友人及び後見人等外部の者(以下「家族等」という。)との面会が制限される事例が多数見受けられる。
確かに、高齢者・障害者施設には、高齢者のほか、糖尿病、心疾患及び呼吸器疾患等の基礎疾患を抱える者など感染症に対する抵抗力の弱い利用者が多数集団生活しており、一旦、施設内で感染者が発生すると多数の者が集団で感染することも想定されるために感染対策の徹底が求められ、その対応に大変な苦慮をされている。
ただ、利用者とその家族等にとって、面会を行うことは、親しい者と会って話をすることで精神上の安定が図られるなど、平穏な生活を送るうえで必要不可欠なものであり、こうした平穏な生活を送ることは個人の人格的利益に直結するものであるから、憲法13条後段のいわゆる幸福追求権により憲法上保障されている重要なものである。
この点、厚生労働省の「社会福祉施設等における 感染拡大防止のための留意点について(その2)」(令和2年4月7日付厚生労働省健康局結核感染症課ほか連名事務連絡)(以下「4月7日付事務連絡」という。)において、「面会については 、感染経路の遮断という観点から、緊急やむを得ない場合を除き、制限すること。テレビ電話等の活用を行うこと等の工夫をすることも検討すること。」と原則面会禁止の方針を示しつつ、テレビ電話等の活用等の検討を示した。そして、厚生労働省からは、4月7日付事務連絡を前提に、高齢者施設等に対しては「高齢者施設等におけるオンラインでの面会の実施について」(令和2年5月15日付同省老健局総務課認知症施策推進室事務連絡)において、障害者支援施設等に対しては「障害者支援施設等におけるオンラインでの面会の実施について」(令和2年5月22日付同省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課事務連絡)において、施設利用者と家族との間で、オンライン面会、すなわち、テレビ電話システムやWebアプリのビデオ通話機能等のインターネットを利用する面会を行うことが望ましい旨の事務連絡が発出された。
そして、今般、発出された令和2年10月15日付事務連絡においては、4月7日付事務連絡の別紙を一部改正し、利用者と家族等との面会の制限について、緊急やむを得ない場合を除いて制限するとしつつ、「つながりや交流が心身の健康に与える影響という観点から、地域における発生状況等も踏まえ」た面会を許容し、面会を実施する場合の留意事項の記載も追加されるなど、利用者と家族等の面会制限を実質的に緩和する方針が示されるに至っている。
このように高齢者・障害者施設における利用者と家族等との面会制限が実質的に緩和される方針自体は大変歓迎すべきものであるが、令和2年10月15日付事務連絡は緊急やむを得ない場合を除き面会を制限するという方針自体を変更するものではない。
この点、上記面会の重要性に鑑みれば、「緊急やむを得ない場合を除き面会を制限する」という方針自体が緩和されるべきである。また、面会を制限する場合でもオンラインでの面会は広く実施されるべきである。当然このようなオンラインでの面会対応は利用者側の準備や施設側の人的・物的な制限が伴うため、国からの経済的支援(施設導入のための費用や面会のために必要となった人件費の補助等)も必要であり、全ての施設で即時の導入が可能なものではないが、高齢者・障害者施設において、その対応が可能であるにもかかわらず、こうしたオンライン面会等が実施されず、一律に面会制限を行っている事例が多く見受けられている。
その一方で、コロナウイルスの感染原因・特性については多くの部分が未解明であり、高齢者・障害者施設側の感染対策の努力にもかかわらず不可避的に感染が発生するリスクがある。そのため、高齢者・障害者施設において、面会時における感染対策を万全にして徹底しているにもかかわらず、結果としてコロナウイルスの感染が発生したとしても、施設側が責められるべきではない。
以上から、当会は、高齢者・障害者施設の関係者の皆様に敬意を表しつつ、利用者とその家族等の面会が人格的利益に直結する重要なものであることに鑑み、高齢者・障害者施設に対して、上記オンライン面会を活用するなど、可能な限り利用者とその家族等が面会することができるよう配慮することを求める。また、国及び都道府県に対して、①感染対策の徹底を前提とした面会制限の緩和、②施設がオンライン面会や直接の面会等を実施できるような更なる必要な支援を行うことを求める。さらに、社会に対して、感染対策の徹底に尽力している高齢者・障害者施設において感染が発生した場合であっても、施設側を非難することのない寛容さを求める。
2020年(令和2年)11月20日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 十 河 弘