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災害援護資金貸付に関する意見書

2021年02月10日

2021年(令和3年)2月10日

仙 台 弁 護 士 会

会 長 十 河  弘

 

災害援護資金貸付に関する意見書

 
 
 
第1 意見の趣旨
 
 当会は、災害援護資金貸付に関する制度について、国に対し、以下の対応を求める。

1 貸付金の償還期限を延長できるように法令を改正すること
2 借受人が死亡した場合、自治体が、原則として、相続放棄手続がなくとも、直ちに償還免除できるように運用を改善すること
3 借受人の償還債務の連帯保証人が死亡した場合、自治体が、原則として、相続放棄手続がなくとも直ちに連帯保証債務の償還免除できるように法令を改正すること
4 現に生活に困窮し、かつ、将来においても収入が増える見込みの乏しい借受人に対し、直ちに償還免除する制度を創設すること
5 償還金の回収業務を担当する被災市町村に対し、償還金回収の債権管理費用を負担し、管理に当たる人員の拡充などの人的資源の手当を行うこと
 
第2 理由
 
1 災害援護資金貸付制度及びその目的
災害援護資金貸付は、災害救助法による救助が行われた災害等により一定の被害を受けた、一定所得以下の世帯の世帯主に、市町村が生活再建資金を貸し付ける制度である(災害弔慰金の支給に関する法律第4章参照)。
貸付原資負担割合は、国が3分の2、都道府県(政令指定都市の場合は政令指定都市。以下、都道府県と政令市を総称して「都道府県等」という)が3分の1となっている。すなわち、国が貸付金の3分の2を都道府県等に貸し付け、都道府県はこれに貸付金の3分の1を加えて市町村に貸し付け、市町村は、対象者に貸付をするという仕組みとなっている。政令市の場合には、国から貸付を受けた3分の2に、政令市が拠出する3分の1を加えて、被災者に貸付をすることとなっている。
したがって、災害援護資金貸付を行った市町村は、都道府県に対し貸付金の全額を償還する法的義務を負っており、都道府県等は、貸付金の3分の2を国に償還すべき法的義務を負っている。
 
2 災害援護資金貸付の特色
一般的に、融資制度は、将来、確実に弁済されるように債務者の与信審査を行い、物的担保を徴求されるところ、災害援護資金貸付は、与信審査を行うことなく、むしろ一定所得以下の世帯のみを対象とした貸付であることから、一般的な融資制度とは異なる。
さらに、東日本大震災では、保証人がなくても利用可能となり、利息についても保証人を付けた場合は無利子、保証人がいない場合でも利子1.5%に緩和されたことから、宮城県内の低所得世帯を中心に多くの被災者に利用され、生活再建の一助となった。具体的には、宮城県内では令和元年9月末現在で2万3967件、総額408億2868万円、うち仙台市1万5137件、総額233億5771万円も利用されている。これは、給付型の支援制度が不十分な現状の補完制度としての意義が認められるものであり、今後も活用されるべきである。
 
3 災害援護資金の借受人の状況について
東日本大震災から10年を迎えようとしているが、被災地においては現在も、住まいや生活、生業の再建など被災時からの課題を解決できない被災者も多数存在する。
また、上記のとおり、災害援護資金貸付は、もともとも返済が困難と予想される低所得世帯への貸付であることに加え、時の経過とともに、高齢化が進み償還が困難となる被災者が多数存在しているのが現状である。
にもかかわらず、災害援護資金貸付の6年間の据置期間が終了し償還が開始したことにより、より経済的困難に陥り、自己破産、個人再生などの法的手続をとらざるを得なくなる借受人が後を絶たない。
実際、被災市町村にて、災害援護資金貸付の6年間の据置期間が終了し償還が開始した世帯のうち多数の世帯が滞納していること(特に仙台市では半数を超える世帯が滞納している)、償還に関する連絡すら取れない世帯も多数存在することが明らかになっている。
仙台弁護士会が実施した電話相談や面談相談においても、償還に関する相談が多数寄せられ、特に年金収入に頼る高齢者世帯で今後の償還が困難であるとの声が多くあった。たとえば、災害援護資金350万円を借りた場合、返済額は月額4万4000円にもなるが、生活保護世帯や年金収入のみの世帯には償還は著しく困難である。
このまま借受人に償還を強いれば、借受人の生活再建を阻害するおそれがある。
 
4 貸付金の償還期限を延長できるように法令を改正すべきこと
宮城県内の被災市町村は、償還困難世帯に対し、償還猶予・少額償還を認める運用を行っているが、宮城県及び政令指定都市である仙台市(以下、宮城県及び仙台市を総称して「宮城県等」という)の国への償還期限は貸付から13年後と定められている。償還期限が延長されなければ、自治体が償還猶予や少額償還を認めても、いわゆるテールヘビーとならざるを得ず、借受人は、償還期限内の返済が困難なことについて精神的不安を抱えながらの生活を強いられることになる。
また、借受人からの償還を受けられない場合、被災市町村及び宮城県は、それぞれ一般会計から償還(仙台市以外の被災市町村は宮城県に対し、宮城県等は国に対し償還する)することを強いられることなり、その不利益は甚だしい。
償還期限の延長が予め示されれば、借受人は、上記テールヘビーな返済条件を恐れることなく長期分割の償還をすることができるので回収率の増加が見込まれることに加え、被災市町村及び都道府県も、一般会計からの貸付金の償還をする必要がなくなる。
よって、国は、災害援護資金貸付の償還期限を延長するように法令改正するべきである。
少なくとも、国は、被災市町村が償還を受けた限度で都道府県に償還し、都道府県及び政令指定都市が償還を受けた限度で国に対し償還する制度に改めるべきであり、これと併せて、政令指定都市を除く被災市町村が、借受人に対し償還期限を延長した場合には、被災市町村の都道府県に対する償還期限も連動して延長するように法令改正をするべきである。
 
5 相続について
⑴ 災害弔慰金法第14条1項は、「市町村は、災害援護資金の貸付けを受けた者が死亡したときは、当該災害援護資金の償還未済額の全部又は一部の償還を免除することができる」とされ、同条2項は、「都道府県は、市町村が前項の規定により災害援護資金の償還を免除したときは、当該市町村に対し、その免除した金額に相当する額の貸付金の償還を免除するものとする」とされ、同条3項は、「国は、指定都市又は都道府県が第1項又は前項の規定により災害援護資金又は貸付金の償還を免除したときは、当該指定都市又は都道府県に対し、その免除した金額の3分の2に相当する額の貸付金の償還を免除するものとする」とされ、借受人が死亡した場合には、償還免除できることになっている。
しかし、現状は、借受人が死亡しても償還免除せず、借受人の相続人が相続放棄をしない限り、借受人の相続人に対し、償還請求を行う運用となっており、法律と現実の運用とが乖離している。
前述のとおり、災害援護資金貸付が被災者の生活再建のための貸付制度であり、与信審査がないばかりか一定程度の所得以下の世帯しか貸付を受けられず、また、借受人死亡により償還免除されるという、一般の貸金とはおよそ異なる被災者の生活再建を目的とした特殊な貸付であることからすれば、被災者の生活再建という法の趣旨に則り運用されるべきである。
よって、借受人が死亡したときは、相続放棄手続がなくとも原則として直ちに償還免除するという運用が確立されるべきである。
なお、借受人と同居していた同一世帯の相続人については、災害援護資金貸付により生活再建について利益を受けているものと評価でき、一律に償還免除することは相当でない場合があり得る。しかし、そのような場合であっても、災害援護資金貸付が、もともと世帯収入が一定所得以下の被災者の世帯を対象とした貸付であることを踏まえ、当該相続人に少額償還や償還猶予など資力に応じた償還方法を認めるべきである。
⑵ 借受人の償還債務の連帯保証人が死亡した場合には、さらに考慮を要する。
連帯保証人の相続人は、借受人と同居していた親族が連帯保証人である場合を除き、そもそも償還債務の連帯保証債務を認識していないことが多いことから、不測の損害を被りかねない。また、借受人が災害援護資金貸付を受けたことによる何らの恩恵も受けていない。さらに、原則連帯保証人を求めない民法改正の経過に照らしても、安易に相続による連帯保証債務の承継を認めるべきではない。加えて、阪神淡路大震災の例では、西宮市など連帯保証人の借受人に対する事前求償権の消滅時効期間が経過したことをもって、連帯保証人の償還債務を免除している。
よって、国は、連帯保証人が死亡した場合には、相続放棄を要件とすることなく、原則として連帯保証債務を免除すべきである。
 
6 経済的困窮者一般に償還免除をすべきこと
災害援護資金が公的資金を用いた貸付金であることからすれば、償還免除の必要性の判断は慎重になされるべきであることは当然である。
しかし、それでも被災者の置かれた実情に鑑みれば、生活保護受給者に準ずる低所得者など経済的困窮者(連帯保証人も含め)については償還免除を認めるべきである。
生活保護受給者やこれに準ずる低所得者で、かかる状況に至った経緯に鑑み、今後も窮状を脱する見込みが乏しい者や、一定金額以下の年金収入のみで生活している高齢者など、現に経済的に困窮しており、かつ、将来においても償還金を支払う見込みが乏しいと判断される事案については、直ちに償還免除を認め、借受人を経済的負担から開放するとともに、債権管理を行う被災市町村の負担を軽減できるよう法令改正すべきである。
 
7 自治体の管理費用について
償還金回収事務は被災市町村の多大な負担にもなっている。具体的には、償還金の回収事務、滞納者に対する督促事務、償還困難な借受人からの少額償還ないし償還猶予の判断のみならず、借受人死亡のケースでは、法律上は償還免除できるものとされているものの、実際には相続放棄をしない限り償還免除をしていないことから、被災市町村は複数世代にわたる相続人を全て調査して、相続分に応じて細分化した償還金債権の相続放棄の有無を確認する必要がある。その上で、相続放棄をしていない相続人に対しては、細分化された償還金債権について償還を求めることになる。
連帯保証人が死亡した場合にも、借受人死亡と同様に、相続人調査を行い、相続放棄の有無を確認する必要がある。災害援護資金貸付当時、債務者は借受人1名、連帯保証人が付されている場合には連帯保証人1名の現況を把握していれば足りたものが、借受人ないし連帯保証人が死亡した場合には、その相続人の数だけ現況を把握しなければならない。
このように、自治体の管理事務の負担は過大となっている。
この点、管理費用については、借受人から受け取る利息を管理費用に充てることを前提にしている。しかし、阪神淡路大震災の例では、借受人から貸付額に対し、年3%の利息を徴収することができたが、東日本大震災では、借受に際し、連帯保証人を付した場合には無利息とし、連帯保証人を付けなかった場合には年1.5%の利息とされており、管理コストをまかなうことは困難である。
阪神・淡路大震災の神戸市の例をみても、貸付から24年以上にわたり債権管理を行い、その費用は、累計で43億円以上にも上っている。宮城県内の被災市町村も、将来的に同様の事態になることが見込まれる。
また、災害援護資金貸付の原資は国及び都道府県等が負担しており、被災市町村は一定の期限のもと、貸付原資全額を都道府県等に償還する義務を負うが、現在の滞納状況に鑑みると、被災市町村は過大な経済的負担を負わされることとなる。
そこで、国は、貸付金の償還金回収業務を担当する被災市町村に対し、その債権管理費用を負担し、管理に当たる人員の拡充などの人的資源の手当も行うべきである。
 
8 まとめ
以上から、当会は被災地弁護士会として、国に対し、意見書の趣旨記載のとおりの法令改正及び運用改善等を求めるものである。
災害援護資金貸付は、被災者の生活再建のための制度であって、経済的困窮者に償還を強いることにより、被災者の生活再建が阻害されることがあってはならない。

以 上

 

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