すべての人にとって平等な婚姻制度の実現とパートナーシップ認証制度の創設を求める決議
我が国における法制上、戸籍上の同性間での婚姻(同性婚)が認められていないことは、性的指向が同性に向く人々の婚姻の自由を侵害し、法の下の平等に違反するものであり、憲法13条、14条に照らし重大な人権侵害である。
すなわち、憲法13条が保障する自己決定権は、家族の維持形成に関わる事柄に及ぶことから、憲法13条は自己決定権として婚姻の自由を保障する。そして、婚姻の本質的な要素は、当事者の人格的な結合であり、人格的生存に深く関わる価値を持つが、この本質において、指向する相手が異性であると同性であるとで異なることはないのであるから、同性同士の結合にも、自己決定権としての婚姻の自由が保障される。よって、同性婚を認めないことは、憲法13条に違反する。
さらに、同性愛は歴史的にも強固な差別の理由となってきたものであるが、性的指向は本人の意思によっては左右できないものであり、性的指向が異性に向く者が、その選択した者を配偶者として婚姻できるのに対して、性的指向が同性に向く者が、その選択した者を配偶者として婚姻できないとして性的指向により異なる取扱いをすることを正当化しうる事由はない。よって、同性婚を認めないことは、法の下の平等を保障する憲法14条に違反する。
そして、同性婚が認められないことは、憲法上の人権侵害に当たるのみならず、法律婚であれば当然に受けられる法的保障を受けられず、相続や子の養育についての不利益を受けたり、遺族年金を受給できない、公営住宅への入居が認められない、医療同意をすることができない等の実際上の不利益が生じている。
国内においても同性婚に対する理解は進んでおり、国際的にみても、ヨーロッパ、北米及び中南米諸国を中心に、この数年の間で同性婚を認める国が増えている。先進国首脳会議参加国であるG7の中でみても、国レベルで同性婚ないしはパートナーシップ認証制度等、婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけである。さらに、国連人権高等弁務官の報告書においても、各国に対し、同性のカップルとその子どもに法的な承認を与え、伝統的に婚姻しているパートナーに与えられてきた便益(年金、税金、財産承継を含む。)を差別なく与えることが勧告されていることなどを踏まえ、早急に同性婚を認める法制度を整備するべきである。
なお、憲法24条第1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し(以下略)」と定めているが、これは、旧民法における婚姻と異なり、婚姻が当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきことを明らかにしたものであり同性婚を禁止する趣旨を含まない。
他方、法律上同性婚が認められていない現状において、パートナーシップ認証制度を導入し、同性カップルの不利益を解消しようとしている自治体は、2020年12月時点で66自治体に上る。
もとより、自治体によるパートナーシップ認証制度は、法律婚と同様の法的効果を伴うものではないため、上記の不利益をすべて解消できるものではないが、パートナーシップ認証制度が創設され、行政サービスの受益者としての地位が確立することで、広く性的マイノリティの存在や被っている不利益が社会的に認知され、民間企業によるサービスにも波及するという効果が見込まれる。
また、性的マイノリティにとっても、同性カップルとしての社会的地位が認められることで、社会的存在としてのアイデンティティの確立に資する。
そのため、とりわけ国による同性婚の法整備が行われるまでの間においては、パートナーシップ認証制度の存在意義があり、創設の必要性は高い。
そこで、当会は、性的指向、性自認にかかわらず、すべての人が尊重される社会を目指し、以下のとおり求める。
記
1 政府及び国会に対し、同性間の婚姻を認め、これに関連する法整備を速 やかに行うこと。
2 宮城県及び県内の各市町村に対し、性的マイノリティに対する差別と偏見をなくし、性的マイノリティに婚姻が認められないことによる不利益を軽減し暮らしやすい社会を作るため、いわゆるパートナーシップ認証制度を創設すること。
2021年(令和3年)2月27日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 十 河 弘
提 案 理 由
1 はじめに
我が国においては法制上、同性間の婚姻(同性婚)が認められていない。
民法は、同性婚が有効か無効かについては明示していない。しかし、法務省は「戸籍事務は、同性婚を認めないとする民法に従って、処理されるものと考えています。」との見解を示しており(平成28年10月7日付け法務省民一第949号)(かかる法務省見解は、民法は婚姻の当事者を繰り返し「夫婦」と呼んでいることを踏まえ、男性と女性の2名が婚姻することを想定しているとの理解を前提としていると解される。)、国及び自治体においては、民法では同性婚は認められていないとの解釈のもと、戸籍実務が行われている。
そのため、性的指向が同性に向く人々は、自らの性的指向に従う限り法的な婚姻ができないことによる各種の不利益を被っている。
2 同性カップルが直面する不利益
同性間に婚姻が認められていないことにより、同性カップルは、様々な分野において、法律上・事実上の不利益を受けている。
(1)パートナーの死に伴う問題
民法上、同性パートナーは相続人になれない。
そのため、共同生活で築いた財産があっても、同性パートナーは遺言がなければ財産を承継することができない。仮に、遺言があったとしても、親族から遺留分侵害額請求(改正前民法の遺留分減殺請求)を受けるおそれがあり、同性パートナーの存在を知らない親族とトラブルになる可能性も高い。
さらに、相続税の配偶者税額軽減措置が適用されない。
また、遺族基礎年金・遺族厚生年金が受給できない。
(2)子の養育についての問題
自らもうけた未成年の子を同性パートナーとともに養育しているケースは多く存在するが、そのパートナーと子との間に、法律上の親子関係を築くことは難しい。異性間であれば、婚姻して養子縁組をすることにより法律上の親子関係を築くことができるが、同性間では、同性パートナーがその子と養子縁組をすると、民法818条2項により実親であるパートナーの親権が失われてしまうため、同性パートナーは事実上養子縁組を結ぶことができない。
この場合、パートナーにとって子はあくまで法律上は他人であり、親としてその子を養育しようと思っても活動が制約される。さらに、実親が死亡した場合、パートナーと子との関係がいかに良好であっても、パートナーが親権を得ることはなく、未成年後見人選任申立の手続が開始する。
これらは同性パートナーが不利益を受けるにとどまらず、子の養育にも影響を与えかねないものである。
(3)一方が外国人である場合の問題
同性カップルの一方が外国人の場合にも問題は顕在化する。
日本人と婚姻した外国人には、「日本人の配偶者等」として在留資格が与えられるが、同性パートナーは、「配偶者等」に該当しないため、その他の長期在留資格を得られなければ、短期滞在の在留資格で日本に滞在するほかなく、オーバーステイのリスクと隣り合わせの生活を余儀なくされる。そして、在留特別許可を得ることも困難な場合が多い。
(4)その他の不利益
上記以外にも、公営住宅への入居が認められない、民間住宅であってもルームシェアが可能な住宅にしか入居できないなどの住居に関する問題、病院でパートナーの病状について説明を受けたり、意識不明状態にあるパートナーの治療方針の決定に関与したりすることが認められないことがあるなどの医療現場での問題の他、パートナーが逮捕された際に留置場所を教えてもらえない、自動車保険の運転者家族限定特約の申込を拒否されることがあるなど、同性カップルが直面する法律上・事実上の不利益は極めて広範な分野に及んでいる。
3 性的指向について
(1)性的指向(Sexual Orientation)とは、人の恋愛感情や性的な関心がどのような性別に向かうかの指向をいう。
性的指向は、誰にとってもその人の「自分らしさ」に深く関わる事柄であり、異性愛の人は、その人とは異なる性の人に惹きつけられ、両性愛の人は同じあるいは異なる性の人に惹きつけられ得る。
なお、性自認とは、自分の性をどのように認識しているのか、どのようなアイデンティティ(性同一性)を自分の感覚として持っているかを示す概念である。
性的指向は、性自認とは必ずしも関連するものではない。
(2) 性的指向は、世界的にも精神医学界において、長い間、障害とみなされ、治療の対象とされてきた。しかし、1990年5月17日、WHO(世界保健機構)の国際疾病分類改訂版第10版(ICD-10)において、「同性愛」の診断名が廃止され、「性指向自体は障害と考えられるべきではない」との注記が付されたことで、世界的に性的指向に関する認識が改められた。
日本精神神経学会も、1995年、「ICD-10に準拠し、同性への性指向それ自体を精神障害とみなさない」との見解を明らかにした。
(3) 日本において、同性愛者は、長らく強固な差別や偏見の対象とされ、中には、裁判で争われた例もある。
例えば、1990年4月、東京都教育委員会が同性愛者のグループに対し、府中青年の家の宿泊利用を拒否し、その後、この処分の違憲・違法性が裁判で争われた。
1997年の控訴審東京高裁判決(東京高判平成9年9月16日判例タイムズ986号206頁)は、1990年当時において一般国民の同性愛者についての知識が乏しかったとしても、公権力には、少数者である同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているのであるから、公権力が、少数者である同性愛者に無関心であったり知識がないということは許されない旨を判示した。
4 同性婚と憲法上の位置づけ
(1)同性婚と憲法13条
憲法13条は、自己決定権として婚姻の自由を保障しているが、自己決定権の及ぶ事柄の一つには、家族の維持形成に関わる事柄があり、婚姻は、家族の維持形成における中心的な事柄であるから、憲法13条により、自己決定権としての婚姻の自由が保障されている。
この点、婚姻の自由における婚姻の本質的な要素は、当事者の人格的な結合である。この人格的な結合は、相手と継続的に協力し合い親密で人格的な結び付きを維持形成することであり、人格的生存に深く関わる価値を持つ。そして、同性愛者も、人生において継続的に協力し合う関係を持つ相手(性的指向に適う同性の相手)を選択し、自ら選択した相手と継続的に親密で人格的な関係を維持形成しているのであり、同性同士の結合の場合においても、婚姻の自由を保障する必要性があることに違いはない。
したがって、同性同士の結合にも、自己決定権としての婚姻の自由が保障されるべきである。
(2)同性婚と憲法14条
ア 合憲性審査の方法
一般に、人種、信条、性別、社会的身分又は門地といった憲法14条1項後段の列挙事由による異なる取扱いの合憲性については、厳格な審査基準によるとされている。すなわち、これらは歴史的に強固な差別の理由とされてきたものであり、また、本人の意思によっては左右できないものであるから、強い正当化事由がない限り、原則として、差別が禁止される。
この点、性的指向は、本人の意思によっては左右できないものであり、同性愛は歴史的にも強固な差別の根拠となってきたものであるから、列挙されている事由と同様に、厳格な基準をもって判断すべきである。
したがって、性的指向によって別異の取扱いをすることは、強い正当化事由がない限り禁止される。
イ 同性婚を認めない正当化事由の有無
① いわゆる歴史的伝統的な結婚観
正当化事由として、まず考えられるのは、同性婚を認めることは、婚姻の意義を生殖と子の養育を目的とする男女の結合であることを前提に異性婚を当然のものとしてきたいわゆる歴史的伝統的な結婚観を根底から覆し、婚姻制度を大幅に変更することになり許されないという考え方である。このような主張は、同性婚に反対の立場から、他国の司法審査において繰り返されている。
しかし、そもそも、子どもを産み育てるかどうかを決めることは最も私的な領域に属することであり、人としての生き方の根幹に関わることであるから、憲法13条の自己決定権として、またはリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)として保障される。ゆえに、国家が生殖と養育を目的とする男女の結合のみを婚姻として保護することは、それ以外の婚姻の在り方を認めないことの正当化事由たり得ない。
したがって、いわゆる歴史的伝統的な結婚観により婚姻の意義を生殖と子の養育を目的とするものと限定することは、そもそも婚姻について別異の例外を認めるための正当化事由とはなり得ない。
② 民法が定める他の消極的要件との関係
論者によっては、婚姻の自由や平等原則を理由にして同性婚を認めた場合には、民法が婚姻の実質的消極的要件の規定(民法731条から738条まで)で禁止している重婚なども認めざるを得ないことになりかねないとの懸念を示すことがある。
しかし、民法が定める婚姻の実質的消極的要件の制定理由は、要件ごとに異なっており、あくまで自己決定権や平等原則との関係で個別に検討していくべき問題である。
例えば、重婚の禁止の趣旨は、婚姻が人と人の結合、つまり一対一の結合をその本質とすることにあり、それ自体、個人の尊厳と両者の本質的平等に立脚した婚姻制度による当然の帰結と言える。
それゆえ、重婚は、自己決定権や平等原則の観点から許されると解することができないものであり、同性婚を認めることとは全く次元を異にするものである。
したがって、民法が定める他の消極的要件との関係は、性的指向によって別異の取扱いをする正当化事由とはなり得ない。
③ 手続的な混乱
現在の婚姻制度は、男女間を前提に規定され、同性婚には適用できない規定もあるため、民法や他の法令の改正には困難が伴い、各種行政手続にも混乱が生じるため、同性婚を認めることはできないとする考え方である。
しかし、同性婚を認めた国々で、同性婚が認められたことによって、手続的な混乱を生じたとの報告はこれまで特になされていない。
また、男女間を前提とする規定(民法772条、733条等)の適否も技術的な問題にすぎず、解決可能である。
したがって、手続的な混乱についても、性的指向によって別異の取扱いをする正当化事由とはなり得ない。
(3)憲法24条における同性婚の許容性
ア 憲法24条は、第1項で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定め、「両性の合意のみ」との文言を用いていることから、同性間の合意による婚姻(同性婚)は、両性の合意を欠くものとして、憲法上、許容されていないのかが問題となる。
イ しかし、憲法24条の趣旨は、憲法の基本原理である「個人の尊厳」(13条)と「両性の本質的平等」(14条)を私法上の家族関係にまで及ぼし、家族生活における個人の尊厳と両性の平等を要求するものである。そして、同条1項は、婚姻について、当事者の合意のみを要件として、自己の意思に反する婚姻を強制されず、また、婚姻の成否への両当事者以外の第三者の意思の介入を禁じることを目的としたものである。最高裁も、同項について、「婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。」と判示している(最大判平成27年12月16日民集69巻8号2586頁)。
そして、同条2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定し、個人の尊厳と両性の本質的な平等が、家庭生活において法律を通じて具体化されなければならないことを定めている。同項の趣旨についても、上記最高裁判決は、「具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項も前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したもの」とした上で、「憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点でも立法裁量に限定的な指針を与えるもの」であると判示した。
このように、憲法24条全体の趣旨は、明治憲法時代の家父長制度の解体と個人の尊厳と両性の本質的平等を徹底した新しい家族制度の構築にあり、制度の構築に当たって立法裁量を画する意義をも有するものである。
したがって、憲法24条は同性婚を禁止する趣旨を含むものではない。
ウ なお、憲法24条の趣旨にかかわらず、「両性の合意のみ」との文言自体により同性婚が禁止されているのではないかが問題となる。
しかし、憲法の制定当時は、前述のとおり同性愛は精神障害として治療の対象とされていた時代であり、憲法の制定に当たって、同性婚を想定するようなことはあり得なかった。当然、憲法制定会議の議論においても、同性婚を禁止すべきか否かが議論されることもなかった。
したがって、「両性の合意のみ」との文言が同性の婚姻を禁止する趣旨まで有すると考えることはできない。
エ したがって、憲法24条、同性婚を法律で認めることを禁止しておらず、その基本的な趣旨に照らせばむしろ許容している。
5 同性婚をめぐる国民意識及び国内の動向
(1)同性愛及び同性婚に対する国民の意識
近時、我が国においても同性婚に関する国民の意識を問う調査が繰り返し行われ、同性婚を認める意見が過半数を示している。
ア 2015年、広島修道大学の河口和也教授が研究代表者を務める研究班による「性的マイノリティについての意識」調査(第1回)が実施された。この調査では、全国の20歳から79歳までの者について住民基本台帳による層化二段無作為抽出法により調査対象を抽出し、2600票を配布し有効回答1259票を回収した結果、 同性婚の賛否については、全体では賛成とやや賛成の合計が51.2%、反対とやや反対の合計が41.3%であった。
イ 2019年、同じ研究班が同様の方法により第2回調査を実施し、有効回答2632票を回収した。その結果、同性婚に「賛成」または「やや賛成」の割合は合計64.8%に上った。
ウ この他にも、NHKが2017年3月に実施した世論調査「日本人と憲法2017」では、住民基本台帳から層化無作為二段抽出した全国の18歳以上の4800人を対象に世論調査(「日本人と憲法2017」)を行い、2643人から回答を得た。この世論調査は、憲法に関する国民の意識調査として、過去3回行われたが、2017年の調査で同性婚に関する質問が初めて設問に組み込まれ、「男性どうし、女性どうしが結婚することを認めるべきだ」という質問に対し、「そう思う」との回答が過半数の50.9%を占め、「そうは思わない」の40.7%を大きく上回った(「放送研究と調査2017年10月号」より)。
(2)国内の動向
近時、同性カップルの保障に関する訴訟が相次いで提起されている。
例えば、2017年3月には外国籍の同性パートナーに在留特別許可が認められるべきとして東京地方裁判所に退去強制令書発付処分等取消請求訴訟が提起され、2019年3月、裁判所の勧告を受けて、国が当該同性パートナーの在留特別許可を認めるに至った(在留資格は定住者)。
また、2019年2月14日には、全国の13組の同性カップルが4つの地方裁判所において、同性間では婚姻できないことが違憲であると主張して、国に対し立法不作為による国家賠償を請求する訴訟を提起し、大きく報じられた(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)。
6 国際的な状況
(1)国際的にみても、ヨーロッパ、北米及び中南米諸国を中心に、この数年の間で同性婚を認める国が増えている。
2020年5月時点で、同性婚が認められていることが確認できている国・地域は、以下のとおりである(年月日は法律施行日)。
① オランダ 2001年 4月 1日
② ベルギー 2003年 6月 1日
③ スペイン 2005年 7月 3日
④ カナダ 2005年 7月20日
⑤ 南アフリカ 2006年11月30日
⑥ ノルウェー 2009年 1月 1日
⑦ スウェーデン 2009年 5月 1日
⑧ ポルトガル 2010年 6月 5日
⑨ アイスランド 2010年 6月27日
⑩ アルゼンチン 2010年 7月22日
⑪ デンマーク 2012年 6月15日
⑫ ブラジル 2013年 5月16日
⑬ フランス 2013年 5月18日
⑭ ウルグアイ 2013年 8月 5日
⑮ ニュージーランド 2013年 8月19日
⑯ 英国 2014年 3月29日(*)
⑰ ルクセンブルク 2015年 1月 1日
⑱ 米国 2015年 6月26日
⑲ アイルランド 2015年11月16日
⑳ コロンビア 2016年 4月28日
㉑ フィンランド 2017年 3月 1日
㉒ マルタ 2017年 9月 1日
㉓ ドイツ 2017年10月 1日
㉔ オーストラリア 2017年12月 9日
㉕ オーストリア 2019年 1月 1日
㉖ 台湾 2019年 5月24日
㉗ エクアドル 2019年 6月12日
㉘ コスタリカ 2020年 5月26日
(NPO法人EMA日本HPより)
* 英国は2014年3月にイングランドとウェールズにおいて、2014年12月にスコットランドにおいて、2020年1月に北アイルランドにおいてそれぞれ同性婚が認められた。
なお、この他に、スイスにおいても、2020年12月に同性婚を認める法案が採択された(施行日は未定)。
(2)また、パートナーシップ認証制度を持つ国・地域は以下のとおりである。
アンドラ、イスラエル、イタリア、エクアドル、オーストリア、キプロス、ギリシャ、英国、クロアチア、コロンビア、スイス、スロベニア、チェコ、チリ、ハンガリー、フランス、ベネズエラ、メキシコ(一部の州)、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、ニュージーランド、オランダ、ベルギー
(NPO法人EMA日本HPより)
同性婚とパートナーシップ認証制度のいずれも認められている国・地域もある。
(3)このように、先進国首脳会議参加国(G7)においては日本を除く全ての国で同性婚ないしはパートナーシップ認証制度が認められ、さらに、アジアでも、台湾で、既に同性婚が認められている。
7 国際機関による勧告等
(1) 国連人権高等弁務官から各国への勧告
国連人権理事会の2014年の決議に基づく国連人権高等弁務官の2015年5月4日の報告書(A/HRC/29/23)では、同性のカップルとその子どもに法的な承認を与え、伝統的に婚姻しているパートナーに与えられてきた便益(年金、税金、財産承継を含む。)を差別なく与えることが勧告されている。
(2) 日本に対する自由権規約委員会の総括所見
自由権規約委員会の第5回政府報告に関する総括所見(2008年10月30日)では、性的少数者に対する雇用、住居、社会保障、健康保険、教育等における差別があることに懸念を有する(規約2条(1)及び26条)(パラグラフ29)等とされた。また、同委員会の第6回政府報告に関する総括所見(2014年8月20日)では、さらに性的少数者に対する社会的ハラスメントとスティグマの付与、並びに自治体が運営する住宅制度から同性カップルを排除する差別的規定について懸念が表明され(第2条及び第26条)、締約国は、性的指向及び性同一性を含む、あらゆる理由による差別を禁止する包括的な反差別法を採択すべきである(パラグラフ11)とされている。
(3) 日本に対する社会権規約委員会の総括所見
第3回政府報告書に関する社会権規約委員会の総括所見(2013年5月17日)では、女性、非嫡出子及び同性のカップルに対する差別的規定が締約国の法制度に存在し続けていることに懸念が表明され(第2条2)、委員会は締約国に対して、これら差別の解消のため法改正等を要求する(パラグラフ10)とされている。
(4) 日本に対する国連人権理事会普遍的定期的審査
国連人権理事会における普遍的定期的審査(2008年、2012年、2017年)において、性的指向及び性自認に基づく差別を撤廃するための措置を講じることなどが勧告されている。
8 パートナーシップ認証制度導入の必要性
(1) パートナーシップ認証制度とは
日本におけるパートナーシップ認証制度とは、地方自治体が、同性カップルの関係性を婚姻と同等であると公認する制度である。
かかる公認による効果は、各自治体により異なるが、一般に、公営住宅への入居が認められたり、病院で家族として扱ってもらえたりという一定の効力が期待できる。ただし、法律婚におけるような法的な権利・義務は発生しない。
(2) 国内の状況
国内の状況を見ると、パートナーシップ認証制度を導入している自治体は、2020年12月時点で66自治体に上る。
このうち、66番目の自治体は青森県弘前市であり、昨年12月、弘前市パートナーシップ宣誓制度」を始め、東北で初めてパートナーシップ認証制度を導入した自治体となった。
もとより、自治体によるパートナーシップ認証制度は、法律婚と同様の法的効果を伴うものではないため、先に述べた不利益をすべて解消できるものではなく、本来であれば同性婚の実現による解決が望まれるところである。
しかしながら、パートナーシップ認証制度が創設され、行政サービスの受益者としての地位が確立することで、広く性的マイノリティの存在や被っている不利益が社会的に認知され、民間企業によるサービスにも波及するという効果が見込まれる。
また、性的マイノリティにとっても、同性カップルとしての社会的地位が認められることで、社会的存在としてのアイデンティティの確立に資する。
そのため、とりわけ、国による同性婚の法整備が行われるまでの間においては、パートナーシップ認証制度の存在意義があり、創設の必要性は高い。
9 当会の取り組み
当会では、これまで、LGBTに関する研修会(2017年)、市民向けシンポジウム「多様な性を認め合う社会のために」(2020年、東北弁連と共催)を開催するなど、会員、一般市民への啓発活動を進めてきた。
また、毎年実施する相談会「女性の権利110番」において、2016年以降は、性的マイノリティの方からの相談も受け付けるなどの取り組みをしてきた。
今後は、性的マイノリティ―の方も含め、すべての人が尊重される社会の実現のため、活動を拡充していく所存である。
10 結語
以上のとおり、婚姻の自由は、自己決定権の一つであり、性的指向にかかわらず誰にも等しく認められるべきであるところ、現状では同性婚が認められておらず、これは憲法13条に違反するとともに、性的指向により不平等な取扱いをする点で憲法14条に違反する。
そして、同性婚が認められないことにより、同性カップルは現実に種々の不利益を被っており、かかる状態を速やかに是正する必要がある。
そこで、当会は、国に対して、同性婚を認める法改正を求めるとともに、宮城県及び県内各市町村に対し、パートナーシップ認証制度を創設することを求め、本決議に及ぶ。
以上