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死刑制度の廃止を求める決議

2021年02月27日

死刑制度の廃止を求める決議

 

2021年(令和3年)2月27日

仙 台 弁 護 士 会

 

会 長 十 河 弘

 

決議の趣旨

 

1 当会は、政府及び国会に対し、
(1)死刑制度を廃止すること
(2)死刑制度が廃止されるまでの間、死刑の執行を停止することを求める。
2 当会は、死刑制度の廃止の実現に向けた取組を進める。

 

決議の理由

 

1 はじめに
 死刑制度は、基本的人権を保障すべき国家が、基本的人権を享有する大前提である生命を奪うという基本的人権の保障にとって極めて重大かつ根源的な問題を含むものである。また、死刑は、誤判・えん罪の場合には、取り返しがつかない人権侵害となるし、社会正義にも反する。
死刑制度が、基本的人権の擁護と社会正義の実現の問題である以上、死刑制度がどうあるべきかの検討は弁護士会が取り組むべき課題であり、当会としても、死刑制度と向き合い、一定の結論を出して、活動することが求められているというべきである。
 
2 死刑制度を廃止すべき理由
  死刑制度は、基本的人権の尊重と社会正義の実現の観点から、すみやかに廃止すべきである。
(1)基本的人権の尊重(生命に対する権利の保障)
ア 全ての人間は、ただ人間であるということのみに基づいて当然に権利(基本的人権)を有している。あらゆる基本的人権の最も根源に位置する権利は、「生きる権利」、すなわち生命権であり、この生命権は最大限尊重されなければならない。あらゆる人権は、およそ人が生きてはじめて享受できるものであり、生命権が保障されなければ、その他の人権が保障される前提が失われてしまうからである。
死刑とは、国家が刑罰権の行使という名の下に個人の生命を奪うものであり、国家による生命権の制約にほかならないから、死刑が許されるためには、生命権の制約を正当化できるとする十分な積極的な理由づけが必要である。すなわち、死刑制度の存否の問題というのは、単にひとつの制度の要否を問う問題ではなく、国家によるあらゆる基本的人権の根源に位置する生命権の制約に正当な根拠を見いだせるか否かという問題である。
イ 1948年に公布された世界人権宣言の前文には、「人類社会の全ての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることの出来ない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である」と記載されており、全ての人間が生まれながらにして基本的人権を有するとの認識が示されている。
そして、今日、あらゆる基本的人権の最も根源に位置する権利である生命権の重要性も、全世界的に認識されるに至っている。1966年に採択され、1976年に発効した国際人権規約(自由権規約、B規約)は、第6条において、「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。何人も、恣意的にその生命を奪われない」と明記している。また、1982年に欧州連合(EU)が締結した欧州条約第6議定書は、平時の死刑の廃止を規定し、2002年締結の同第13議定書では、戦時を含むすべての状況における死刑の完全廃止を規定した。この規定では「いかなる罪を犯したとしても、すべての人間には生来尊厳が備わっており、その人格は不可侵である。人権の尊重は、犯罪者を含めあらゆる人に当てはまる。」とうたわれている。これらは、生命権は、人間にとって根源的な最も大切な権利であり、たとえ犯罪者であっても生来の尊厳及び人格は不可侵であって、それを制約することは、いかなる場合であっても(国家の刑罰権行使であっても)できないとする立場に立っている。なお、民間団体であるアムネスティインターナショナルが1977年に出した「死刑廃止のためのストックホルム宣言」でも、「死刑がこの上もなく、残虐、非人道的かつ屈辱的な刑罰であり、生きる権利を侵すものであることを想起し」「死刑に対して全面的かつ無条件に反対」するとされている。
このように、国際社会においては、基本的人権の重要性が認識されており、更にはあらゆる基本的人権の最も根源に位置する生命権の不可侵性についての認識も徐々に高まってきており、その結果、現在、全世界の国家数の内3分の2を超える142カ国が法律上又は事実上死刑を廃止している。OECD加盟国37カ国の内では、未だに国家として死刑執行を続けているのは日本と2020年に17年ぶりに死刑執行を行ったアメリカのみである。
ウ 以上のとおり、現在の国際社会においては、国家による生命権の制約である死刑には、それを正当化できるとする十分な積極的な理由づけを見出しがたいという考え方が主流になっているが、日本における死刑制度、すなわち国家による刑罰権の行使としての生命権の制約には、それを正当化できるとする十分な積極的な理由づけを見出せるであろうか。
  極めて悪質で凶悪と見られる殺人事件が起こった場合に、そのような形で他人の生命を奪うという重大な罪を犯した者の生命権をも保障する必要があるのかという悩みは確かに生じうる。しかし、国家がその犯人を死刑とすることは、たとえ犯罪者に対する刑罰権の行使という形であっても、国家が個人に対し、生きる価値がある人間かそうでないかの選別を行うものである。こうした国家による生命選別を許すことは、個々の生命の価値に国家が優劣をつけることを認めるに等しく、全ての人間がただ人間であるということのみに基づいて当然に権利を有しているという基本的人権の性質及びそれを尊重しようとする人権擁護の精神とは相容れない。
 刑罰権の行使としての死刑を執行する局面において、死刑を行わなければ誰か他者の生命権または基本的人権が損なわれてしまうという状況にはない。つまり他の基本的人権の擁護のために死刑にすることがやむを得ないという状況にはない。
生命を奪われた被害者の遺族が、加害者を許せないという気持ちを抱き、その命でもって償ってほしいという気持ちを抱くことは、誠に自然なことであり、そのような心情は、決して疎かにしてはならないが、被害者遺族の処罰を求める心情ないし権利が生命権に当然に優先するとまではいえない。
死刑に重大犯罪を抑止する効果があるか否かについては、死刑廃止をした各国においても廃止の前後で犯罪発生率の増加はみられないなど、科学的、統計的に効果があるとの立証はまったくなされていない。
日本国政府は、「国民の多数が極めて悪質・凶悪な犯罪については死刑もやむを得ないと考えている」ということ、すなわち、世論の支持を理由として、死刑制度は存置されるべきであると説明している。しかし、そもそも、世論の多数の支持があるからといって、国家が個人のいかなる人権をも制約してよいという根拠にはなり得ない。更に言えば、死刑もやむを得ないとの回答が多数となる日本の世論調査は、死刑執行状況の実態や、世界的に見て死刑の廃止により凶悪犯罪は増えていないという事実などの情報を正確に与えず、かつ、死刑の代替刑の可能性も加味せずに実施されているものである。この調査の結果をもって、国民の圧倒的多数が積極的に死刑制度に賛成しているとすることは相当ではないし、このような調査結果に死刑存置の根拠を求めようとするべきではない。
以上によれば、日本においても、死刑制度の存続という形で、国家が個人の生命権の制約を正当化できるとする十分な積極的な理由づけを見出すことはできないと言わざるを得ない。
エ したがって、人権の尊重をまっとうするためには、死刑制度は廃止されるべきである。
(2)誤判・えん罪のおそれ
  ア 刑事裁判手続は、社会にとって必要で重要な制度である。しかし、無実の人間が誤って死刑判決を言い渡され執行されることは、重大な人権侵害であり、社会正義にも反するから、絶対にあってはならないことである。
  イ この絶対にあってはならない誤判による死刑判決が言い渡された例が少なからずある。1980年代に死刑確定者が再審開始決定を得て、その後再審で無罪判決を受け生還した4件の事件(免田、財田川、島田、松山事件)はつとに有名である。また、再審無罪は確定していないが、一度は再審開始決定の出た名張ぶどう酒事件や袴田事件があり、さらに無罪を主張し再審請求の準備中に死刑が執行された飯塚事件などの事件がある。
  ウ 死刑誤判がおきないよう捜査の完全録画や、自白を偏重せず、科学的証拠を重視するなど、捜査・裁判の各段階で改善がなされなければならない。
しかし、裁判には、無限に審理を続けることはできないといった時間と費用の制約があるし、訴訟上の証明は、自然科学者の用いるような実験に基づくいわゆる論理的証明ではなく、いわゆる歴史的証明であり、歴史的証明は、通常人なら誰でも疑を差し挟まない程度に真実らしい確信を得ることで証明できたとすることであるから、通常は反証の余地が残されている(最高裁判所第一小法廷昭和23年8月5日判決)。そして、刑事裁判で犯罪事実の有無を認定は、人間が行うものであり、人間の能力には限界がある以上、誤判・えん罪が起きてしまう可能性を完全に排除することはできない。
長く刑事事件を担当し、退官後に大学で刑事裁判の研究をした元裁判官である渡部保夫氏は、「捜査および裁判における過誤の一半は、悲しいことですが“人間の不完全性”に由来します。神様が捜査し、裁判をするのではない限り、ときに間違った捜査・裁判がなされるのはやむを得ません。」と述べている(『刑事裁判ものがたり』(JLF選書)80頁から82頁)。人間の行う裁判に誤りのありうることは、裁判の本質として認めなければならない。
  エ 衆人環視のなかで行われた事件については、犯人性に関する誤判はないから、事件の内容によっては死刑とすることが必要であり、死刑を存置するべきであるという主張がある。
しかしながら、衆人環視のなかで行われた事件であっても、すくなくとも違法性阻却事由、責任阻却事由、情状に関する事実の誤判が生ずる可能性は否定できないから、衆人環視のなかで行われた事件についても、死刑を廃止するべきである。
また、衆人環視のなかで行われた事件おいては犯人性に関する誤判がないとの理由で死刑を存置すれば、衆人環視で行われたのではなく、状況証拠の積み重ねで犯人性を認定しなければならない多くの事件において、国家が無実の人に誤って死刑を言い渡し、その命を奪う危険性が残ってしまうという問題がある。
  オ 被害者やその遺族の悲しみ、苦しみは想像を絶するものがあるが、それ故
に無実の人間に死刑を言い渡してよいということにはならない。誤判で死刑
を言い渡された人にとっては、全く無実であるのに重大犯罪の犯人という汚
名を着せられ、否応なしに生命を剥奪されるのである。そのような誤判死刑
事件は、重大な人権侵害であり、明らかに社会正義に反するものであるから、稀有な例であるとしても、絶対に認められない。
  カ 他の多くの国では、もともとあった死刑が廃止されているが、その中には
誤判死刑がきっかけとなり廃止された国がある。無実の者や不当に死刑判決を受けた者が国家刑罰権の名の下に生命を奪われることは、いかなる国においても絶対に許されない人権侵害・社会的不正義であり、日本でも死刑制度を廃止すべきである。
(3)小括
   以上のとおり、当会は、基本的人権の尊重と社会正義の実現の観点か
ら、死刑制度をすみやかに廃止すべきであると考える。
 
3 犯罪被害者支援との関係
犯罪により奪われた被害者の命はかけがえのないものである。被害者遺族が加
害者に対して厳罰を望むことは自然なことで十分理解し得るものであり、これは、
被害者が複数であろうと1人であろうと変わりがない。
死刑廃止を求めることは、このような大多数の被害者遺族が抱くであろう感情(特に応報感情)を害するものであるかもしれない。
しかし、刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、一般予防及び特別予防の観
点、再犯防止のための加害者の更生と教育の観点等を加味して、国の施策として
定められるものであり、被害者や被害者遺族の応報感情のみによって刑罰制度の
種類・内容を定めることはできない。
一方で、死刑制度の存廃の問題とは別個に、被害者や被害者遺族に必要な総合的支援が実現されることは重要な課題である。
我が国の被害者や被害者遺族に対する精神的、経済的、社会的支援は、他の先進諸国に比べると、いまだ不十分といわざるを得ない現状にあり、当会は、国および社会に対し、被害者及び被害者遺族に必要な総合的支援の実現を求めるとともに、当会としても、より一層の犯罪被害者支援活動の充実に努めているところである。
 
4 死刑の執行停止
死刑廃止の実現に向け、死刑廃止の存廃についての国民的議論を行うことは必要不可欠であるが、その前提として、死刑制度や死刑執行に関する情報が広く国民に公開されている必要がある。しかし、日本において、死刑確定者が普段どのような生活をしているのか、具体的死刑執行の情報を知ることは極めて困難な状況にある。
政府が死刑を存置する理由の一つに、国民世論の8割が死刑制度に賛成していることが挙げられる。しかし、政府による死刑に関する情報公開はほとんど無いに等しく、国民はほとんど何も知らされないままに死刑制度の是非を問われているのが現状である。
上記の通り、死刑制度が最も基本的な人権に関わる重大な問題であること、誤判の可能性があることを踏まえ、死刑制度廃止が国際的潮流であることからすれば、死刑制度の犯罪抑止効果、死刑囚の置かれている状況、死刑執行の選定基準やプロセス、死刑執行の方法、誤判・冤罪と死刑の関係など死刑に関する情報が広く国民に公開され、死刑制度の存廃に関する国民的議論が行われるべきである。
しかし、情報公開や国民的議論には、多大な時間がかかることが容易に想定できる。この間にも、死刑の執行が行われる可能性は否定できない。死刑は、いったん執行されてしまえば、取り返しがつかないものである。そうである以上、国民的議論が行われ、何らかの結論がでるまでは、死刑の執行は停止されるべきである。
 
5 結 論
よって、当会は、政府及び国会に対し、死刑制度を廃止すること、死刑制度が廃止されるまでの間、死刑の執行を停止することをそれぞれ求めるとともに、死刑制度廃止の実現に向けた取組を進める決意であることをここに決議するものである。

以上

 
出席会員数115名 賛成90名 反対12名 棄権11名
 

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