日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「憲法改正手続法」という)の一部を改正する法律(以下「改正法」という。)は、本年6月11日に参議院本会議で可決成立した。
憲法改正手続法は、国会が発議した憲法改正案に賛成するか反対するか、その最終的な判断は主権者である国民の投票で決まる(憲法96条)ことから、その国民投票についての具体的な方法を定めることを目的として、2007年に成立した法律である。
同法については、成立当時からすでに多数の問題点が含まれていることが指摘され、そのことは18項目にも亘る参議院の附帯決議で明らかにされ、2014年の改正の際にも、参議院において20項目の附帯決議がなされている。
それら指摘された問題の中でも、特に重要なのは、テレビ・ラジオの有料広告に関する規制の問題と、最低投票率の問題である。
テレビ・ラジオの有料広告については、現在でも、国民投票の14日前からは賛成・反対を勧誘する有料広告放送は禁止するという規制は存在する(105条)。しかし、裏を返せば、国民投票の15日前までは自由に有料広告放送を行うことができ、また賛成・反対の勧誘ではない単なる賛成又は反対の意見表明だけの有料広告放送は14日前以降も自由にできることを意味する。その結果、資金力の多寡によって視聴者への影響力に格差が生じ、国民の判断が歪められるおそれが生じうるため、表現の自由に配慮しながら意見広告の公平性と適正さの確保のための方策を講じる必要がある。
最低投票率の問題は、国民投票の投票率が低いと、投票権者のうち極少数の賛成により憲法改正が行われることになり、改正憲法の正当性・信頼性に疑義が生じてしまうため、国民投票が有効となるための要件として一定の投票率(最低投票率)を定める必要があるが、現行法にはその定めがないという問題である。
以上の2つの問題が特に重要であることは、2007年の附帯決議に当たっても、それらに限って、「本法施行までに検討を加えること」として検討の期限を明記していたことからも明らかである。当会においても、2018年3月13日付の会長声明において、テレビ・ラジオの有料広告に関する規制の問題と最低投票率の問題について抜本的改正をすることなく国民投票を実施することに反対の意思を表明した。
しかし、今回の改正法の内容は、まずもって審議されなければならない上記2つの問題の改正には手を付けず、2016年の公職選挙法改正の7項目(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰延投票、投票所へ入場できる子どもの範囲)の規定を整備するにとどまるものである。衆議院において、テレビ・ラジオの有料広告規制及びインターネットを含む有料意見広告の制限について、法施行後3年を目途に必要な法制上の措置を講じる旨の附則が追加されたものの、問題解消に向けた検討がなされたとは到底言えない。
かえって、上記2007年の附帯決議から約14年が経過しているにもかかわらず、今回の改正法でも上記のような附則の追加にとどまることを踏まえると、今後、上記の問題点が解消されることのないまま国民投票が実施される可能性も否定できない。
よって、当会は、上記の重要な問題点について審議を尽くすことなく改正法を成立させた国会の審議に抗議し、改めて、憲法改正手続法の抜本的改正を求めるとともに、今回の改正法を含む現行法の下で国民投票を実施することに反対する。
2021年(令和3年)6月24日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鈴 木 覚