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重要土地等利用規制法の成立に抗議し、同法の速やかな廃止を求める会長声明

2021年06月24日

菅内閣は、第204回通常国会に「重要施設周辺及び国境離島における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」を提出し、同法案は本年6月16日未明に参議院本会議で可決成立した(重要土地等利用規制法。以下「本法」という。)。

本法は、防衛関係施設等の「重要施設」(第2条第2項)や「国境離島等」(同条第3項)の機能を阻害する行為を防止する目的で、内閣総理大臣が「重要施設」の敷地の周囲おおむね1000メートルの区域内及び国境離島等の区域内を「注視区域」(第5条)や「特別注視区域」(第12条)として指定し、これら区域内の土地等(土地及び建物)の利用状況や利用者等の個人情報を調査し(第6条~第8条)、土地等の利用者が当該土地等を重要施設等の機能を阻害する行為の用に供し、または供する明らかなおそれがあると認めたときは、土地等の利用者に対し、利用中止の勧告や命令を出し(第9条)、調査や命令等に応じない者に懲役刑を含む刑罰を科すること(第25条ないし第28条)などを内容とするものである。

しかし、本法には、次のとおり重大な問題がある。

第1の問題として、「重要施設」の概念が極めて曖昧かつ広範である点である。
本法第2条第2項は、「重要施設」として、自衛隊や米軍の施設(防衛関連施設)、海上保安庁の施設及び「生活関連施設」(国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの)を掲げている。「防衛関連施設」である自衛隊や米軍の施設は、全国に多数あり、特に沖縄県や神奈川県では市街地に近接した場所に存在し、ここ宮城県においても、松島基地や霞の目駐屯地、仙台駐屯地をはじめ、市街地近くに多くの施設が存在している。
また、「重要施設」の一つである「生活関連施設」(第2条第2項第3号)には、原発等の発電所、水道施設、情報通信施設、医療施設、空港施設、鉄道施設等の主要なインフラ施設が軒並み含まれる可能性がある。

第2の問題として、「注視区域」も広範に指定されるおそれがある点である。
「注視区域」指定の要件は、①「重要施設」の周囲おおむね1000メートル以内の区域内の区域であること、及び②「重要施設」の「機能を阻害する行為の用に供されることを特に防止する必要がある」ことであるが、②の要件は曖昧であるため恣意的な運用を許すおそれがある。その結果、「重要施設」が前記のとおり広範な概念であることとも相まって、日本の至るところに「注視区域」が指定されるおそれがある。
「注視区域」に指定されると、調査及び利用規制の対象となるため、そこで生活する多くの者の権利利益に多大な影響を及ぼすおそれが極めて大きい。

第3の問題として、注視区域内の住民等のプライバシー権(憲法第13条)や思想良心の自由(憲法第19条)の侵害のおそれが極めて大きい点である。
本法第7条は、注視区域内における土地等利用状況調査の一環として、内閣総理大臣が関係行政機関や地方公共団体の長等に対して、土地等の「利用者その他の関係者」に関する個人情報のうち氏名又は名称、住所その他「政令で定める」ものの提供を求めることができることを定めている。
つまり、第7条は、内閣総理大臣は「注視区域」内の土地等の「利用者その他の関係者」の個人情報を本人の同意に基づかずに収集できるというものである。しかも、収集できる個人情報の範囲は何の限定もなく政令に委任されているため、内閣の恣意的判断により思想信条等の個人情報までをも収集される危険が高い。
この点で留意すべきは、自衛隊情報保全隊による国民監視である。仙台高裁2016年2月2日判決は、自衛隊情報保全隊の国民監視活動の一部をプライバシー侵害の違法行為であると判断した。しかし、本法は、仙台高裁がプライバシー侵害と認定した自衛隊情報保全隊による国民監視及び同隊を通じた個人情報の収集の合法化を招きかねず、国民のプライバシー権保障が大きく後退してしまう。

第4の問題として、刑罰を背景にした報告の徴収等である。
本法は、内閣総理大臣が指定区域内の土地等の「利用者その他の関係者」に対して、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができるとし(第8条)、報告や資料提出を拒否した場合には、罰金刑が科される(第27条)。「報告又は資料の提出」の範囲に限定がない以上、対象者の思想信条に関する事項ついてまで報告及び資料提出の対象とされかねず、それを刑罰の威嚇の下に強制することは、思想良心の自由やプライバシ―権のほか、市民活動の萎縮など表現の自由(憲法第21条)をも侵害する。

第5の問題として、曖昧不明確な要件による土地等の利用制限をしている点である。
本法は、内閣総理大臣が、注視区域内の土地等の利用者が自らの土地等を、重要施設等の「機能を阻害する行為」に供し又は供する明らかなおそれがあると認めるときに、勧告及び命令により当該土地等の利用を制限することができると定めている(第9条)。しかし、「機能を阻害する行為」や「供する明らかなおそれ」は曖昧不明確な要件であるため、例えば、基地建設反対運動や基地監視活動のために土地等を利用している場合にも制限されかねず、注視区域内の土地等の利用者の財産権(憲法第29条)や居住の自由(憲法第22条)、表現の自由に対する不当な制限となる。加えて、特別注視区域内の一定面積以上の土地等の売買等契約について、内閣総理大臣への届出の義務付け(第13条)も、過度の規制による財産権の侵害につながるおそれがある。
本法は、これらの利用中止命令や事前の届出に従わない場合には懲役刑を含む刑罰を科すことを定めているところ(第25条、第26条)、前提となる「機能等阻害行為」が曖昧不明確であったり、届出事項が内閣府令に委ねられており、法律上明確にされていないことからすると、本法案の上記刑罰規定は罪刑法定主義や適正手続の保障(憲法第31条)に違反する。

以上のような憲法上重大な問題を含む本法であるにもかかわらず、その立法事実は示されていない。菅内閣は、本法の立法事実として、北海道千歳市や長崎県対馬市において外国資本が自衛隊基地周辺の土地を購入した事例を挙げ、地域住民から不安の声があがっている、全国の自治体からの意見書が提出されている旨説明していた。しかし、千歳市の事例は基地周辺1000メートルの範囲内ではなく、地元である千歳市や対馬市の市議会からは立法を求める意見書も提出されていない。そもそも、防衛省自身が全国約650の自衛隊・米軍施設の隣接地を調査し、施設の運用に支障が生じる事態は確認されなかったとしている。したがって、立法事実が示されたとは言えない。

よって、当会は、立法事実が示されておらず、内容においても曖昧不明確な要件や政令への広範な委任により、基本的人権を侵害する本法が国会で成立したことに抗議するともに、速やかに同法を廃止することを求める。

2021年(令和3年)6月24日

仙 台 弁 護 士 会

会 長  鈴  木   覚

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