1 本年6月16日に閉会した第204回通常国会において、検察官に国家公務員法の定年後の勤務延長規定を適用しないことなどを内容とする国家公務員法等の一部を改正する法律(以下「本法」という。)が成立した。検察官の定年後の勤務延長に関しては、以下に述べるとおり法治主義に反する政府解釈の変更が行われた経緯があり、本法の成立によってその解釈変更に基づく運用が封じられた点は評価できるものの、法治主義に反する政府解釈が維持されていることは看過できない。
2 2020年1月31日、当時の安倍内閣は、国家公務員の定年後の勤務延長を規定する国家公務員法第81条の3第1項は検察官には適用されないとの従来の政府解釈を変更して、検察官に同条項の適用があるとの解釈変更(以下「本件解釈変更」という。)を行った上で、同年2月7日に定年退職を迎えることになっていた東京高検検事長について、同年8月7日まで勤務延長する旨の閣議決定(以下「本件閣議決定」という。)を行った。
本件解釈変更は、特別法である検察庁法と一般法である国家公務員法の適用関係及び国家公務員法の条文構造に反し、国家公務員の定年制を導入した1981年の国家公務員法改正の際に国会審議で確認された政府の認識及び解釈にも反するものであって、法解釈の限界を大きく逸脱した違法なものである。そのような本件解釈変更が国会審議も経ずに行われることは、憲法の基本原理である三権分立の趣旨に反するとともに、法治主義の否定にほかならないことは、当会の2020年3月12日の会長声明で指摘したとおりである。
3 ところが、政府は、本件解釈変更を撤回しないばかりか、2020年3月13日、検察官について、任命権者の判断により、国家公務員法の定年後勤務延長規定を適用して定年後の勤務延長を可能とし、また63歳の役職定年後の役職勤務延長も可能とする規定を盛り込んだ、検察庁法改正案(以下「前改正案」という。)を含む国家公務員法等の一部改正法案を衆議院に提出した。これは、本件閣議決定の前提なる本件解釈変更を後付けで正当化しようとするものであった。
しかし、前改正案に対する反対の声が国民の中に大きなうねりとなって広がり、日本弁護士連合会や全国の52の全弁護士会による前改正案に反対・抗議する会長声明などの多くの反対意見が出された。その結果、政府は、第201回通常国会での前改正案の成立を断念し、前改正案を含む国家公務員法等の一部改正法案は廃案となった。
4 以上の経過を経て、国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げることなどを内容とする改正案が、第204回通常国会に提出され、本年6月4日、参議院で可決成立した。
本法における改正検察庁法では、検察官について役職定年後の役職勤務延長を可能とする規定は盛り込まれず、任命者の判断により定年後の勤務延長を可能とする国家公務員法の規定を検察官には適用しないことが明記された。したがって、本法を前提とする限り、検察官について任命権者の判断により定年後の勤務延長をすることはできないことが明確となった。
5 しかし、政府は、本件解釈変更を維持したままである。そのことは、上川陽子法務大臣が、2021年4月20日の衆議院法務委員会において、本件解釈変更について、「それ自体が誤っていたというものではなく、撤回する必要はないとものと考えております。」、「解釈変更を前提としつつも、今後は検察官に勤務延長の規定を適用しないということを明文で定めてものでございまして、従来の解釈変更を改める解釈変更を行ったものではありません。」と答弁していることからも明らかである。
政府が、本件解釈変更が法解釈の限界を大きく逸脱した違法なものであることを認めず、本件解釈変更を維持したままでは、今後も本件解釈変更と同様の法解釈の限界を逸脱した違法な解釈変更が繰り返されるおそれがあり、法治主義にとって重大な脅威となる。
したがって、本法における改正検察庁法によって、検察官について任命権者の判断により定年後の勤務延長をすることはできないことが明確となったとしても、政府が法治主義に違反する本件解釈変更を維持していることは断じて看過できない。
6 よって、当会は、政府に対し、改めて、本件解釈変更を直ちに撤回し、法治主義に基づいた法令の解釈運用を行うことを求める。
2021年(令和3年)7月29日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鈴 木 覚