本年12月21日、東京拘置所及び大阪拘置所において3名の死刑が執
行された。我が国における死刑執行は、今世紀に入ってから、2011年を除いて毎年行われていたが、2019年12月から今回の死刑執行まで2年間死刑執行は行われていなかった。岸田内閣が発足し、古川禎久法務大臣が就任しからわずか79日目での執行であった。
死刑制度は、罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪うものであり、人の生命に関わる極めて重大な人権問題を内包する。
また、死刑は、えん罪であった場合には、本来死刑にしてはならない者の生命を奪うという取り返しがつかない事態が招来するものである。このことは、免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件という4件の死刑えん罪事件において、死刑が確定した後、再審で無罪が判明していることからも明らかである。なお、取り返しがつかない事態が招来することは、死刑か否かの量刑判断を左右する重要な事実についての事実誤認があった場合も同様である。
そのため、当会は、これまで、政府に対し、死刑の執行を停止した上で、死刑制度の存廃について、国民が十分に議論を尽くし意見を形成するのに必要な情報(死刑制度の犯罪抑止効果、死刑囚の置かれている状況、死刑執行の選定基準やプロセス、死刑執行の方法、誤判・えん罪と死刑の関係など死刑に関する情報等)を広く国民に公開し、国民的議論を行うよう繰り返し求めてきた。
さらに、当会は、本年2月27日の定期総会において、「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し、政府及び国会に対し、(1)死刑制度を廃止すること、(2)死刑制度が廃止されるまでの間、死刑の執行を停止すること、を求めるとともに、当会としても、死刑制度の廃止の実現に向けた取組みを進める決意を表明したところである。
しかしながら、政府は、未だ国民的議論のための情報公開を十分に行わないまま、今回の死刑執行に及んでいる。このような死刑制度に対する政府の姿勢は、死刑制度が基本的人権に関わる極めて重要な問題であることへの配慮を明らかに欠いたものであり、国際社会のすう勢に反し、死刑制度の廃止の必要性を著しく軽視したものと言わざるを得ない。
今回死刑が執行された3名のうちの2名は、再審請求中であったが、再審請求中に死刑を執行することは、当該再審請求者に対し死刑を適用すべきか否かという点も含め、誤判・えん罪の可能性を審査する機会を奪うことにほかならず、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害し、適正手続保障(憲法31条)に違反するものである。そして、再審請求中でなかった者についても、死刑を執行されなければ、再審を請求する可能性はあったのであるから、結局、誤判・えん罪の可能性を審査する機会を奪われたことになる。
よって、当会は、政府に対し、今回の死刑執行について強く抗議し、政府及び国会に対し、死刑制度を廃止する立法措置を講じること、死刑制度が廃止されるまでの間全ての死刑の執行を停止することを求める。
2021年(令和3年)12月23日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鈴 木 覚