第1 意見の趣旨
当会は、災害援護資金貸付に関する制度について、国及び都道府県に対し、以下の対応を求める。
1 都道府県は、市町村が、災害弔慰金の支給等に関する法律14条1項に基づいて、災害援護資金貸付の償還を免除した場合には、同条2項に基づき、市町村が免除した金額に相当する金額の償還を無条件で免除すること。
2 国は、指定都市または都道府県が、災害弔慰金の支給等に関する法律14条2項に基づいて、市町村に対して償還を免除した場合には、同条3項に基づき、指定都市または都道府県が免除した金額の3分の2に相当する金額の償還を無条件で免除すること。
第2 理由
1 当会の活動
災害援護資金貸付の償還に関し、当会は、令和3年2月10日、「災害援護資金貸付に関する意見書」を採択し、貸付金の償還期限の延長、借受人(法文上は「災害援護資金の貸付けを受けた者」以下同じ)及び連帯保証人の死亡の場合、原則として相続放棄手続がなくとも償還を免除すべきこと、生活に困窮し将来においても収入増加の見込みのない者に対して直ちに償還を免除する制度を構築すべきであること、市町村の管理コストにつき国が負担すべきことなどを提言した。
2 内閣府担当官の見解
従前、内閣府担当官からは、災害援護資金貸付は貸金である以上、返還義務のあることが前提であり、相続の対象ともなることは法務省民事局から指摘されていること、したがって、国の債権の管理等に関する法律(以下「債権管理法」という)21条の適用があり、免除にあたっては財務省との調整も必要であること、さらに、国と指定都市または都道府県との調整も必要となるといった見解が示された。
3 法文上の規定
この点、災害弔慰金の支給等に関する法律(以下「法」という)14条は、市町村が災害援護資金貸付を受けた者が死亡または重度の障害を受けたために償還ができなくなった場合の処理として、市町村は、同貸付を受けた者に対する償還を「免除することができる」ものと規定し、市町村に裁量があるものとしている(法14条1項)。
一方で、都道府県については、市町村が、この規定により償還を免除した場合には、その免除した金額に相当する額の貸付金の償還を「免除するものとする」と規定し(法14条2項)、都道府県の裁量を排除している。
また、国についても、指定都市または都道府県が、上記規定により免除をした相当額について、その3分の2について償還を「免除するものとする」と規定し(法14条3項)、同様にその裁量を排除している。
4 災害援護資金貸付の法的性質と免除の要件
このように、災害援護資金貸付については、確かにその法的性質は金銭消費貸借契約であることは明らかではあるものの、同貸付の目的が災害による被災者の救済にあることから、借受人が死亡や重度障害に陥った場合に償還を免除するなどといった、一般の貸金とは明らかに異なる特別の規定が設けられているのである(法14条1項)。
そして、その免除については、法文上、借受人が「死亡」または「重度障害」に陥り、「災害援護資金を償還することができなくなったと認められるとき」に、市町村がその償還を「免除することができる」とされているのであるから(法14条1項本文)、市町村が、借受人が死亡や重度障害に陥り、償還の可否について不可能との判断をした場合には、当該市町村の裁量で免除をすることができるものと読むほかない。
市町村が上記判断により、借受人に対して償還の免除をした場合には、都道府県や国としては、市町村に対する貸付金を免除しない余地はない。法は、「免除するものとする」と規定し(法14条2項及び3項)、免除の可否について、都道府県や国に裁量を与えていないからである。
災害弔慰金の支給に関する法律の制定、改正は議員立法によってなされているところ、償還免除について明示的に都道府県や国の裁量を排除しているのは、災害援護資金貸付の償還免除を市町村の裁量に委ね、問題を迅速に処理させる趣旨であることは明らかである。
ところが、この点につき、都道府県や国は態度を曖昧にしており、また、先述のとおり、内閣府担当官は、返還義務があることが前提であるとか、相続の対象となる、といった見解を示している。このような状況から、市町村は、本来償還免除に関する裁量があるにもかかわらず、その判断を躊躇させられているのが現状である。
その結果、被災者は、法律上は借受人の死亡により免除の余地があるにもかかわらず、現実には請求を受けることとなり、現状の運用は、法の趣旨とは正反対に、被災者を困惑させるという極めて由々しき事態に陥っている。かかる現状は、法14条の趣旨に反する違法なものであって、到底許されるものではなく、直ちに是正されなければならない。
5 災害援護資金貸付の償還免除は、国の債権の管理等に関する法律の対象外であること
これまで述べた通り、災害援護資金貸付の償還免除は、法に基づいた裁量の余地のない免除なのであるから、内閣府担当官が従前から指摘してきた債権管理法は、そもそも適用の余地はない。加えて言えば、債権管理法と法との関係は、それぞれの趣旨・目的に照らせば、一般法と特別法の関係にあることは明らかであり、その意味でも、特別法である法14条の2項及び3項の規定の解釈運用に関し、一般法である債権管理法を持ち出すことも誤りである。
内閣府担当官は、債権管理法21条の適用を前提として、貸付の相手方が、指定都市または都道府県であることから、債権管理法21条1項各号のいずれにも該当しないとの見解を従前から示しているが、同条項自体が債権の存在を前提とした規定であることが法文上も理論上も明らかであるところ、災害援護資金貸付については、法14条3項により、市町村が免除した金額については、法律上当然に償還を求めることができないこととなるのであるから、その前提自体が誤っている。
6 総括
以上より、災害援護資金貸付については、市町村が、借受人の死亡または重度障害により、償還ができなくなったものと認め、市町村の裁量で免除をするとの判断に至った場合には、都道府県及び国は、無条件でこれに相当する額の免除をしなければならないことは、法文上からも明白である。これに反する解釈や運用は、違法であるから、直ちに是正されなければならない。
国及び都道府県が、市町村に対し、これまでの違法な解釈や運用を改め、意見の趣旨記載の対応をする旨明言することにより、市町村は円滑に対応することができるようになり、被災者の救済に資する。
被災地においては現在も、住まいや生活、生業の再建など被災時からの課題を解決できない被災者が多数存在する。被災者の生活再建支援のため、速やかに、従前の違法な解釈や運用を改め、法の規定に則った適切な対応をとることを切に求める。
2021年(令和3年)12月23日
仙台弁護士会
会長 鈴 木 覚