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民法750条を改正し選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議

2022年02月26日

民法750条を改正し選択的夫婦別姓制度の導入を求める決議

 民法750条は、婚姻により夫婦が同姓となることを規定しており、戸籍法74条1号は、婚姻届に夫婦の姓を届け出ることを規定している。そのため、婚姻することに合意した夫婦が婚姻届を提出するためには、夫または妻のいずれかが生来の姓を相手方の姓に改姓することを余儀なくされる。
しかし、氏名は、「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であつて、人格権の一内容を構成する」(最高裁判所昭和63年2月16日判決)ものであり、その意に反して「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として憲法13条によって保障される。
したがって、夫婦同姓を強制し、夫婦の一方に姓の変更を強制することは、憲法13条に違反する。
また、憲法24条は、婚姻における個人の尊厳と両性の本質的平等を定めているところ、夫婦の姓について、現実には95.3%の夫婦において女性が改姓している(2020(令和2)年厚生労働省人口動態調査)ことからすれば、夫婦同姓の強制を定める民法750条は、多くの女性から実質的に姓の選択の機会を奪うものであり、婚姻における個人の尊厳を侵害し、かつ、平等権を侵害しており、憲法14条及び同24条にも違反する。

 この点、最高裁判所は、民法750条について、2015(平成27)年12月16日に合憲判断を下し、また、2021(令和3)年6月23日には、大法廷において、2015(平成27)年の最高裁判決を引用し、民法750条と同条を受けた戸籍法74条1項について、いずれも憲法24条に違反するものではないと判断した。
しかしながら、2015(平成27)年の最高裁判決では、5名の裁判官が、夫婦同姓の強制は憲法24条違反であると述べており、2021(令和3)年の大法廷決定においても、4名の裁判官が詳細な検討を行った上で憲法24条違反であるとの意見を述べている。加えて、いずれの多数意見も、制度の在り方は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」と指摘するなど、国会でのさらなる議論を要請している。

また、日本が1985(昭和60)年に批准した女性差別撤廃条約においては、「姓を選択する権利」が明記され、締約国は夫と妻が姓を選択する権利を含む同一の個人的権利を確保するためのすべての適当な措置をとるものとされており、国連女性差別撤廃委員会は、日本に対し、夫婦同姓を定める現行規定を改善するよう、再三勧告を出している。

諸外国では、かつては同姓を義務づけていた国も法改正するなどし、法務省によれば、結婚後に夫婦のいずれかの姓を選択しなければならないとする制度を採用している国は日本だけである。
国内の状況を見ても、各種世論調査において選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する割合は反対の割合を上回り、地方議会においても国に対して選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書を採択する動きが加速している。 

当会は、これまで、2010(平成22)年、2013(平成25)年、2015(平成27)年及び2016(平成28)年の会長声明で、夫婦同姓を強制する民法の差別的規定の早期改正を求めてきた。さらに、2021(令和3)年7月29日付けで「夫婦同氏の強制についての最高裁判所大法廷決定を受け、改めて民法750条を改正し、選択的夫婦別氏制度の導入を求める会長声明」を発出している。
法務大臣の諮問機関である法制審議会が1996(平成8)年に選択的夫婦別氏制度を導入する民法改正要綱試案を答申してからすでに四半世紀が経過しており、また、国内外で様々な議論が尽くされ、国民の多くが導入を支持するに至っている状況であるにもかかわらず、国会はこれらを放置してきたものであって、これ以上の議論の先延ばしは許されない。
よって、当会は、夫婦同姓の強制を定める民法750条が、憲法をはじめ、国際条約等に反することを改めて指摘するとともに、国に対し、民法750条を改正し、選択的夫婦別姓制度を速やかに導入することを強く求める。

2022年(令和4年)2月26日
仙 台 弁 護 士 会
会 長  鈴  木   覚

提案理由

1 はじめに
 我が国においては、民法750条が夫婦同姓を強制しており、夫婦別姓を選択することが認められていない。
しかしながら、夫婦同姓を強制することは、憲法13条及び同24条が保障する個人の尊厳及び婚姻の自由、同14条及び同24条が保障する平等権を侵害し、さらには、女性差別撤廃条約、自由権規約等の国際条約にも反する。
この点について、最高裁判所は、2015(平成27)年12月16日、民法750条に対する最初の大法廷判決において合憲の判断を示した(以下「2015(平成27)年最高裁判決」という。)。さらに、2021(令和3)年6月23日、最高裁判所大法廷が民法750条及び同条を受けた戸籍法74条1項について、いずれも合憲とする2度目の判断を示した(以下、「2021(令和3)年最高裁決定」という。)。これに対し、当会は、2021(令和3)年7月29日付けで「夫婦同氏の強制についての最高裁判所大法廷決定を受け、改めて民法750条を改正し、選択的夫婦別氏制度の導入を求める会長声明」を発出したところであるが、改めて、夫婦同姓の強制を定める民法750条が、憲法をはじめ、国際条約等に反することを指摘し、国に対し、選択的夫婦別姓制度を速やかに導入することを強く求めるものである。

2 憲法上の権利を侵害すること
(1)個人の尊厳を侵害すること
氏名は、「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であつて、人格権の一内容を構成する」とされている(最高裁判所昭和63年2月16日判決)。
この点、上記2015(平成27)年最高裁判決は、婚姻に際し婚姻前の姓を維持する権利又は利益が人格権の一内容であるとはいえないと判断したが、同時に、婚姻によって改姓する者にとって、「そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、従前の氏を使用する中で形成されてきた他人から識別し特定される機能が阻害される不利益や、個人の信用、評価、名誉感情等にも影響が及ぶという不利益が生じたりすることがあることは否定できず、特に、近年、晩婚化が進み、婚姻前の氏を使用する中で社会的な地位や業績が築かれる期間が長くなっていることから、婚姻に伴い氏を改めることにより不利益を被る者が増加してきている」と指摘した。
これらの指摘にかかる不利益は、氏名が、上記昭和63年最高裁判決のとおり、「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であつて、人格権の一内容を構成する」ものであることに鑑みれば、事実上の不利益にとどまるものではなく、その意に反して「氏名の変更を強制されない自由」もまた、 人格権の重要な一内容として、憲法13条によって保障されるというべきである。
さらに、2021(令和3)年最高裁決定においても、反対意見では、「本件で主張されている氏名に関する人格的利益は、(中略)人格権に含まれるものであり、個人の尊重、個人の尊厳の基盤を成す個人の人格の一内容に関わる権利であるから、 憲法13条により保障される」(宮崎・宇賀両裁判官意見)として、一歩進んで憲法上の権利であると指摘されている。また、多数意見に賛同する裁判官からも、「婚姻の際に婚姻前の氏を維持することに係る利益は、それが憲法上の権利として保障されるか否かの点は措くとしても、個人の重要な人格的利益ということができる。」(三浦裁判官個別意見)と指摘されている。
夫婦の中には同姓を希望する夫婦も別姓を希望する夫婦もありうる中で、夫婦同姓を強制し、別姓を希望している者に対し、意に反する姓の変更を強制することは、人格権を侵害するものであり、憲法13条に違反する。
(2)両性の本質的平等を侵害すること
憲法14条は、法の下の平等を定めており、事柄の性質に応じた合理的根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止している。
また、憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」、また同2項は「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」とし、婚姻における個人の尊厳と両性の本質的平等を定めている。
すなわち、日本国憲法は、14条において性別による差別を禁止し、重ねて24条1項で夫婦が同等の権利を有することを確認し、性別による差別を厳格に禁止している。その上で24条2項は、家族に関する事項の法律が個人の尊厳と両性の平等に立脚することを要請している。
この点、2021(令和3)年最高裁決定は、民法750条の規定が憲法24条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであるとして2015(平成27)年最高裁判決を引用し、同判決以降にみられる女性の有業率の上昇等の諸事情を踏まえても、最高裁判決の判断を変更すべきものとは認められないとした。
しかし、1998(昭和63)年最高裁判決が指摘するように、人の氏名は「人格権の一内容を構成する」のであるから、個人の尊厳に直結したものであるといえる。また、上述の通り、憲法24条2項は、家族に関する事項の法律が個人の尊厳と両性の平等に立脚することを要請している。
この点、民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定め、夫又は妻のいずれの姓でもよいとしていることから、男女平等に形式的には反しないとする考え方があるが、実際には95.3%の夫婦において女性が改姓している(2020(令和2)年厚生労働省人口動態調査)。これは決して夫婦の自由で対等な話し合いによる合意に基づく結果でなく、女性は男性の家に嫁ぎその家の姓を称するものだという家父長的な家族観や婚姻観がいまだに国民の意識の中に持続し、事実上、女性に改姓を強制している結果であり、夫婦同姓の強制を定める民法750条は、多くの女性から実質的に姓の選択の機会を奪っているといえる。
2021(令和3)年最高裁決定においては、4人の裁判官が意見及び反対意見において、民法750条は憲法24条1項及び2項に違反するとした。その中で三浦裁判官は、「婚姻という個人の幸福追求に関し重要な意義を有する意思決定について、二人のうち一人が、重要な人格的利益を放棄することを要件として、その例外を許さないことは、個人の尊厳の要請に照らし、自由な意思決定に対し実質的な制約を課すものといわざるを得ない。」とし、さらに旧民法の家制度は廃止されたものの「男系の氏の維持、継続という意識を払拭するには至らなかった」とし、「夫婦同氏制は、現実の問題として、明らかに女性に不利益を与える効果を伴っており、両性の実質的平等という点で著しい不均衡が生じている。婚姻の際に氏の変更を望まない女性にとって、婚姻の自由の制約は、より強制に近い負担になっているといわざるを得ない。」と指摘した。このように、民法750条は、婚姻の要件を加重するものとして「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」すると定めた憲法24条1項に反し、また、婚姻における個人の尊厳と両性の本質的平等を定めた憲法24条2項にも反する。

3 女性差別撤廃条約及び自由権規約に反すること
 (1)女性差別撤廃条約に反すること
女性差別撤廃条約(1979(昭和54)年採択、1985(昭和60)年批准)は、16条1項(g)において、婚姻及び家族関係における差別の撤廃を締約国に義務付け、撤廃すべき具体的な差別として、「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」と明記した。
また、国連女性差別撤廃委員会は、1994(平成6)年に採択した一般勧告21において、これについて「各パートナーは、共同体における個性及びアイデンティティーを保持し、社会の他の構成員と自己を区別するために、自己の姓を選択する権利を有するべきである。法もしくは慣習により、婚姻もしくはその解消に際して自己の姓の変更を強制される場合には、女性はこれらの権利を否定されている。」と述べている。
そして、同委員会は、日本政府に対し、2003(平成15)年7月、2009年(平成21)8月、2016(平成28)年3月、夫婦同姓を強制する現行制度について再三勧告を発出している。
また、2018(平成30)年12月には、「既婚女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を行うこと。」について、書面による情報を提供するよう日本政府に要請している。
以上に照らせば、民法750条が、各配偶者には婚姻前の姓を選択する権利があるとする女性差別撤廃条約に違反することは明らかであり、かかる条約違反の状態を速やかに是正する必要がある。
 (2)自由権規約に反すること
また、自由権規約(1966(昭和41)年採択、1979(昭和54)年批准)は、3条において規約上の権利の享有に関する男女の同等の権利を規定し、23条4項において婚姻中及び婚姻の解消の際における配偶者の権利の平等について規定しているところ、国連自由権規約委員会は、1990(平成2)年に23条(家族)に関する一般的意見19において、「7 婚姻に係る平等に関し、(中略)各配偶者が自己の婚姻前の姓の使用を保持する権利又は平等の基礎において新しい姓の選択に参加する権利は、保障されるべきである。」と述べた。また同様に、2000(平成12)年に3条(両性の平等)に関する一般的意見28において、「第23条4項の義務を果たすために、締約国は(中略)夫妻の婚姻前の氏の使用を保持し、又新しい氏を選択する場合に対等の立場で決定する配偶者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないことを確実にしなければならない。」と述べた。
このように、民法750条は自由権規約にも反するというべきである。

4  通称使用では選択的夫婦別姓制度の代替とはならないこと
近年、婚姻に伴い姓を変更することで生じる日常の社会生活上の不利益を解消するため、戸籍上は配偶者の姓に変更していても、旧姓を通称として公的な文書に併記するなど、旧姓(婚姻前の姓)対応が徐々に増えてきている。
2015(平成27)年最高裁判決も、「氏の選択に関し、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば、妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。」と述べた上で、かかる不利益は、「氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」と述べており、夫婦別姓制度に消極的な立場からは、戸籍姓を維持したまま、通称使用の拡大で足りるのではないかとの意見もある。
しかし、民法750条による夫婦同姓の強制は、それ自体が憲法と国際条約に違反する人権侵害であり、婚姻に伴う姓の変更による日常の社会生活上の不都合を解消すれば良いというような対症療法的な対応で済む問題ではない。いくら不都合を減らしても、民法750条が婚姻によって夫婦の一方のみに姓を変更することを強制している事実とその背景にある価値観は変わらないのであって、夫婦別姓を希望しても叶わない者や、婚姻により姓の変更を余儀なくされる者(大多数は女性)の人権が、憲法や国際条約に反する法律によって侵害されている状況が解消されるわけでもない。
また、2015(平成27)年最高裁判決の岡部裁判官、櫻井裁判官、鬼丸裁判官の個別意見が指摘するように「通称は便宜的なもので、使用の許否、許される範囲等が定まっているわけではなく、現在のところ公的な文書には使用できない場合があるという欠陥がある上、通称名と戸籍名との同一性という新たな問題を惹起することになる。そもそも通称使用は婚姻によって変動した氏では当該個人の同一性の識別に支障があることを示す証左なのである。既に婚姻をためらう事態が生じている現在において、上記の不利益が一定程度緩和されているからといって夫婦が別の氏を称することを全く認めないことに合理性が認められるものではない。」のである。
同じく木内裁判官も個別意見において「法制化されない通称は、通称を許容するか否かが相手方の判断によるしかなく、氏を改めた者にとって、いちいち相手方の対応を確認する必要があり、個人の呼称の制度として大きな欠陥がある。他方、通称を法制化するとすれば、全く新たな性格の氏を誕生させることになる。その当否は別として、法制化がなされないまま夫婦同氏の合理性の根拠と成し得ないことは当然である。」と指摘している。
すなわち、通称使用が広がるとしてもその範囲は曖昧である上に、それによってかえって通称名と戸籍名との同一性の証明を要するため、その二つの名前の使い分けは、本人にとっても他者から見ても複雑であり、結局のところ混乱を招くことになる。しかも、同一性の証明のためには、婚姻の事実というプライバシーに関する事柄を第三者に開披することを強いられるのである。そして、その同一性の証明が困難であることや使い分けの煩雑さ、さらにはプライバシーの望まぬ開披といった不都合を、結局のところ夫婦の一方のみが負うことになるという点においては夫婦の同等の権利が確保されていない点は何ら変わらない。個別の場面でどれほど通称使用の可能な範囲が拡大しても、通称使用では婚姻に伴う改姓による不利益の救済としては不十分である。

5 別姓により「家族の絆」が変わるものではないこと
夫婦別姓に反対する立場からは、「夫婦や親子の姓が異なることにより、家族の絆が失われる」との主張がなされることがある。
しかしながら、「家族の絆」を何に見出だすかは人それぞれであり、必ずしも同一の姓でなければ保てないというものではない。夫婦が別姓を希望しているにもかかわらず、「家族の絆」の維持のために、家族の構成員である夫婦の一方の尊厳を奪うのは本末転倒である。

6 最高裁判所が国会の判断を重ねて求めていること
2015(平成27)年最高裁判決は、夫婦同姓の強制を定める民法750条を合憲としたが、その多数意見において、婚姻に伴う改姓が女性に対して 特に不利益を生じさせていることを認め、選択的夫婦別姓制度の導入については、これを否定せず、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」であるとした。
さらに、同判決で、5名の裁判官(3名の女性裁判官全員を含む。)は、「夫の氏を称することは夫婦となろうとする者双方の協議によるものであるが、96%もの多数が夫の氏を称することは、女性の社会的経済的な立場の弱さ、家庭生活における立場の弱さ、種々の事実上の圧力など様々な要因のもたらすところであるといえるのであって、夫の氏を称することが妻の意思に基づくものであるとしても、その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しているのである。そうすると、その点の配慮をしないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ、また、自己喪失感といった負担を負うこととなり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない。」(岡部裁判官個別意見)等として、民法750条が憲法24条に違反するとの意見を述べた。
2021(令和3)年最高裁決定でも、「夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効か否かという憲法適合性の審査の問題とは、次元を異にするものである」として、2015(平成27)年判決と同様に国会での議論を求めた。
また、同決定における多数意見(合憲意見)の補足意見も、「法制度の合理性に関わる国民の意識の変化や社会の変化等の状況は、本来、立法機関である国会において不断に目を配り、これに対応すべき事柄であり、選択的夫婦別氏制の導入に関する最近の議論の高まりについても、まずはこれを国会において受け止めるべきであろう。」、「国会において、この問題をめぐる国民の様々な意見や社会の状況の変化等を十分に踏まえた真摯な議論がされることを期待するものである。」としており、国会での議論を強く要請している。
すなわち、最高裁判所は結論としては合憲としたものの、決して現状を容認しているものではない。
このことを、国は、真摯に受け止め、選択的夫婦別姓導入に向けて、議論をさらに進めるべきである。

7 諸外国の状況
諸外国では、かつては同姓を義務付けていた国も法改正するなどし、法務省によれば、結婚後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならないという制度を採用している国は日本だけである。

8 世論の動き
2015(平成27)年最高裁判決以降も、各種世論調査によれば、選択的夫婦別姓導入に賛成する割合は反対の割合を上回っている。
2017(平成29)年の内閣府「家族の法制に関する世論調査」における「選択的夫婦別氏制度の導入に対する考え方」において、「夫婦は必ず同じ名字(姓) を名乗るべき」として選択的夫婦別姓制度に反対する回答は29.3%、「夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」として賛成する回答は42.5%であった。特に、婚姻に伴う改姓が自らの問題であることが多い年代である20代~30代で見ると、20代(18歳~29歳)は賛成50.2%、反対19.8%、30代は賛成52.5%、反対13.6%となっており、賛成の割合は反対の割合を大きく上回っている。
また、2018(平成30)年の国立社会保障・人口問題研究所「社会保障・人口問題基本調査第6回全国家庭動向調査」(対象は、結婚している、あるいは、結婚経験のある女性)において、夫婦別姓について「別姓であってもよい」への賛成割合は半数を超え、特に妻の年齢別で見ると、「60~69歳」では 4割台、「70歳以上」では3割台だが、「29歳以下」、「40~49歳以 下」、「50~59歳以下」ではいずれも55~57%、「30~39歳以下」では60.3%に上る。さらに、次のように最近10数年の間に別姓に賛成する比率は顕著に上昇している。
「夫、妻とも同姓である必要はなく、別姓であってもよい」への賛成割合
2008(平成20)年第4回調査 42.8%
2013(平成25)年第5回調査 41.5%
2018(平成30)年第6回調査 50.5%
このような世論の変化の中でも国会が動かない一方で、地方議会においては、近年、国に対して選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書等が採択され続けている。この動きは2015(平成27)年最高裁判決以後に加速しており、市民団体の調査によると、同判決以前は50件だった意見書等の件数が、2022(令和4)年1月21日時点で確認できているもので328件ある。

9 最後に
法務大臣の諮問機関である法制審議会が1996(平成8)年に選択的夫婦別氏制度を導入する民法改正要綱試案を答申してからすでに四半世紀が経過しており、また、国内外で様々な議論が尽くされ、国民の多くが導入を支持するに至っている状況であるにもかかわらず、国会はこれらを放置してきたものであって、これ以上の議論の先延ばしは許されない。
当会は、これまで、2010(平成22)年、2013(平成25)年、2015(平成27)年及び2016(平成28)年の会長声明で、夫婦同姓を強制する民法の差別的規定の早期改正を求め、さらに、2021(令和3)年7月29日付けで「夫婦同氏の強制についての最高裁判所大法廷決定を受け、改めて民法750条を改正し、選択的夫婦別氏制度の導入を求める会長声明」を発出したところであるが、改めて、民法750条を速やかに改正し、選択的夫婦別姓制度を導入し、両性の本質的平等を実現するため、本決議を提案する。

以上

 
 

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