日本の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)は、地方出入国在留管理官署に広範な裁量を認め、退去強制手続における全件収容主義を採用し、収容にあたっては収容期間の上限を定めておらず、かつ司法審査を導入していない。そして日本は、主要国の中でも難民認定率が極めて低く、適正な難民認定が行われていないと強く疑われている。これらのことから、上記入管法は、外国人の人権を不当に制約するものであるとして、国際社会から繰り返し批判を浴びていた。
政府は、2021年2月19日に、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下「入管法改正案」という。)を国会に提出したが、この入管法改正案は、上記各問題点を是正するどころか、送還停止効の例外を認め、退去命令に従わない者に対して刑事罰を科し、全件収容主義を維持するなど、かえって入管庁の権限を一方的かつ徹底的に強化し、外国人の人権を侵害するおそれの大きい内容であった。その後政府は、同年5月、当該国会での成立を断念し、入管法改正案は事実上廃案となった。
そうしたことから、当会は、同年6月24日に、「出入国管理及び難民認定法改正案の取下げを受け、同法の抜本的な改正を求める会長声明」を発出していた。
周知のとおり、2021年3月6日に、名古屋出入国在留管理局の収容施設でウィシュマ・サンダマリさんが亡くなられるという事件が発生した。直接的な原因は入管収容施設での適切な医療措置の不在であるが、事件の背景には、恣意的な拘禁を許容する入管法の規定の問題がある。
悲劇を繰り返さないようにするためには、ウィシュマさんの死亡事件についての原因を調査し、真相を究明し、それを前提として必要な改革をしていくことが必要である。しかし、法務省、入管庁は、極めて消極的な対応を続けている。
入管庁は、同年8月10日に、入管庁調査チームによる「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告書」を公表した。そして、その報告書をもとに、2022年2月28日、「出入国在留管理官署の収容施設における医療体制の強化に関する有識者会議」が、報告書「入管収容施設における医療体制の強化に関する提言」を入管庁に提出した。
この提言においては、収容施設内医療体制の強化、外部医療機関との連携体制の構築・強化、医療機器の整備を中心に医療体制の強化の方策を検討・提言されている。しかし、必要なことは、医療体制の強化だけではない。
真相究明のためには、入管庁の内部調査では不十分であり、法務省、入管庁から完全に独立した第三者機関によって、恣意的な拘禁の実態や入管収容施設での人権尊重の欠如,事件の背景となった入管法の規定の制度的・構造的問題点等、ウィシュマさんが死亡するに至った根本的な原因の調査が必要である。
当会は、ウィシュマさんの死亡事件について、第三者機関によりその真相と原因を究明することを求めるとともに、政府及び国会に対して、外国人の人権を擁護する観点から、速やかに全件収容主義を廃止し、収容にあたっては、収容期間の上限を定め、事前・事後に司法審査を経るものとするよう、また、難民認定が適正に行われるよう、改めて、国際的基準に合致した形で抜本的に入管法を改正することを求める。
2022年(令和4年)4月13日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 伊 東 満 彦