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災害法制の諸課題改善に関する会長談話 ~東日本大震災から11年を迎えて~

2022年04月14日

災害法制の諸課題改善に関する会長談話 ~東日本大震災から11年を迎えて~

東日本大震災から11年が経過した。また、東日本大震災発生後も、様々な地震、激甚化した水害など新たな災害が相次いで発生している。生活再建ができないまま取り残される被災者を生まないためには、官民連携による多様な支援方法の構築や支援制度の底上げが必須であるが、これを妨げている災害法制上の課題が顕在化している。

1 第1の課題として、災害対策基本法等の現行法に「災害ケースマネジメント」(伴走型の被災者支援制度)が明記されていないことがあげられる。
当会は、東日本大震災、令和元年台風19号災害などの支援活動を行う中で、支援者・建築士などとともに被災者宅を個別訪問し、被災者の生活・住宅・生業の再建に向けたプランニングを被災者とともに考え、各種支援制度の活用などを提案する災害ケースマネジメントを実施し、被災者の復興・再建を支援してきた。かかる支援を通して、住宅修理等、個々の被災者の被災状況に応じた支援制度の利用に漕ぎ着けられた被災者は多数おり、「災害ケースマネジメント」の必要性・有用性は既に十分に確認されている。しかし、かかる災害ケースマネジメントの手法を採用した自治体は、全国的に見れば未だ一部に限られているといえる。
そもそも、同じ災害の被災を受けた住民の中に、きめ細かい支援を受けられる地域・自治体とそうでない地域・自治体が生じ、地域間格差が生じることは、支援の平等性(憲法第14条)からしても、また、被災者個々人の尊重(憲法第13条)からしても、許されない。特に、支援格差が生じることで高齢者や障害者等の被災弱者が、本来受けられる支援から漏れてしまうことは看過できない。
災害が多発している昨今の状況に鑑みれば、災害は日本全国どこでも発生しうる状況にある。かかる状況の中で、支援の地域間格差を克服し、日本全国平等に支援を行き届かせるには、「災害ケースマネジメント」を法律によって制度化することが不可欠といえる。
よって、当会は、災害ケースマネジメントの法制度化を求め、引き続き活動していく所存である。
2 第2の課題として、災害救助法・被災者生活再建支援法など各種災害法制やその運用につき、行政区画・地域による支援格差が生じていることがあげられる。
例えば、令和3年2月13日に発生した福島県沖地震と同年3月20日に発生した宮城県沖地震によって、宮城県内では多くの家屋被害が発生したものの、隣県の福島県と異なり、法令の適用要件を具備していないとして、災害救助法も被災者生活再建支援法も適用されなかった。また、令和4年3月16日に発生した福島県沖地震によって、宮城県では多くの家屋被害が発生していると報じられているものの、隣県の福島県内の多くの市町村と異なり、山元町を除く34の市町村については同支援法は未だ適用されていない。
そのため、宮城県内の被災者は、福島県内の多くの市町村と異なり、令和3年2月及び同年3月の地震では災害救助法及び被災者生活再建支援法所定の全部の支援,令和4年3月地震では一部〔被災者生活再建支援法〕の支援を受けることができず(ただし、山元町を除く)、被災自治体の独自事業による支援に頼らざるを得ないのが現状である。
このように、同じ災害による被害にも関わらず居住する行政区・地域の違いによって国による支援が行き届かない被災者が生じてしまうのは不合理である。仮に被災地市町村による独自事業に解決の道を求めるにしても、当該市町村の抱える財政事情等により区々となり得るものであることからすれば、被災市町村の独自事業によっても、この不合理は完全には解決されないものである。
この不合理は、現行の法制度が、被災都道府県による解釈・運用の相違を許容する要件設定になっていることに求められる(災害救助法第2条,被災者生活再建支援法第2条第2号等)。言い換えると、現行の法制度が、同一災害同一支援の政策を採用していないことに求められる。
当会は、「平成30年7月豪雨災害の全ての被災者に等しく災害救助法及び被災者生活再建支援法による支援を行うことを求める会長声明」(平成30年8月8日)においても、かかる支援格差の不合理を指摘しているが、未だこのような不合理な制度が改善されていないことを改めて指摘しなければならない。
よって、各種災害法制やその運用の改正・改善と、行政区画・地域による支援格差が生じないようにすることを求め、引き続き活動していく所存である。
3 第3の課題として、いわゆる災害援護資金貸付を巡る諸課題の克服があげられる。
 東日本大震災では、災害弔慰金等の支給に関する法律(以下「災害弔慰金支給法」という。)に基づいて、多くの被災者が災害援護資金貸付を受け、すでにその償還が開始している。この償還に関し、当会は、国に対し、貸付金の償還期限の延長、借受人及び連帯保証人の死亡の場合、原則として相続放棄手続がなくとも償還を免除すべきこと、生活に困窮し将来においても収入増加の見込みのない者に対して直ちに償還を免除する制度を構築すべきであること、市町村の管理コストにつき国が負担すべきことなどを提言した 。しかし、この提言にかかる諸課題は未だ克服されないままである。
とりわけ、災害弔慰金支給法第14条にかかる災害援護資金貸付の免除に関しては、市町村が、借受人の死亡または重度障害により、償還ができなくなったものと認め、市町村の裁量で免除をするとの判断に至った場合には、都道府県及び国は、無条件で償還免除の対応をしなければならないことは、法文上明らかなのであるから、これに反する解釈や運用は、違法であるため、直ちに是正されなければならないところである 。
また、いわゆる「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下「自然災害ガイドライン」という。)が新型コロナウィルス感染症の影響により債務の弁済ができなくなった個人債務者にも適用されているところ、今般の新型コロナウィルス感染症の影響により、災害援護資金貸付を受けた被災者において、償還に窮する事態が生じている。また,新型コロナウィルスの影響如何にかかわらず,災害援護資金貸付の償還や他の債務の弁済に窮し,自然災害ガイドラインの活用により生活再建を図ろうとする被災者が現に存在しているところである。
しかるに、災害弔慰金支給法上、自然災害ガイドラインの適用場面について、都道府県及び市町村に対する災害援護資金貸付を国が免除できる根拠規定がなく、国として免除できないため、市町村が独自に免除することは現実的に期待できず、災害援護資金貸付を受けた被災者が、自然災害ガイドラインを活用して生活再建を図ることが困難となっている。そのため、自然災害ガイドラインが適用される場合にも、国は都道府県及び市町村に対する災害援護資金貸付の免除ができるよう災害弔慰金支給法の改正を要するところである。当会は、国に対し、災害援護資金貸付について、債務者が自然災害ガイドラインの要件を充足する場合には、同ガイドラインに基づく償還免除をできるよう所要の法令の改正等を行うことを要請するも、未だ改正等がされないままである 。
被災地においては現在も、住まいや生活、生業の再建など被災時からの課題を解決できない被災者が多数存在する。当会は、被災者の生活再建支援のため、国に対し、速やかに、これまで述べた災害援護資金貸付を巡る諸課題を克服すべく、適切な対応をとることを切に求めるとともに、この諸課題克服を実現するため、引き続き活動していく所存である。
4 そこで、当会は、国に対し、改めて災害ケースマネジメントの法制化を求めるとともに、被災者生活再建支援法や災害救助法など各種災害法制の行政区画による適用基準の要件を緩和する等、同一の災害による被災者の救済が、行政区画等を超えて平等に行われるように、各種災害法制・運用を見直すこと、災害援護資金貸付の償還を巡る各問題点の運用等を改善することを求める。
当会は、今後も、「人間の復興」を視座として、東日本大震災の被災者の支援活動を継続するとともに、災害法制の問題点の改善に向けて力を尽くす所存である。

2022年(令和4年)4月13日  

仙 台 弁 護 士 会    

会長 伊 東 満 彦

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