弁護士会ホーム > 令和4年3月16日発生の福島県沖地震に関する緊急提言書

令和4年3月16日発生の福島県沖地震に関する緊急提言書

2022年06月23日

令和4年3月16日発生の福島県沖地震に関する緊急提言書

2022年(令和4年)6月23日

仙 台 弁 護 士 会

   

会 長 伊 東 満 彦

 

当会は、2022年(令和4年)3月16日発生の福島県沖地震(以下「令和4年福島県沖地震」という。)に関し、被災者を対象とする戸別訪問等(現在継続中)の結果を踏まえ、下記のとおり緊急提言をする。

第1 緊急提言の趣旨
1 宮城県及び宮城県内の被災自治体は、応急修理制度の申請期限を少なくとも2年として運用すること。
2 国は、「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」第7条第2号を改定して、応急修理制度の費用価額の上限を現行の2倍程度に増額すること。
3 国は、風呂、トイレ、台所及び屋根の損壊(経済的効用の滅失)につき、中規模半壊と認定されるよう,「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(令和3年3月)を改定すること。
4 宮城県及び宮城県内の被災自治体は、宮城県外に住家を借りた被災者につき、賃貸型応急住宅の措置をとること。

第2 緊急提言の理由
1 緊急提言の趣旨第1項について
⑴ 令和4年福島県沖地震により、宮城県内では、全壊51棟、大規模半壊19棟、中規模半壊84棟、半壊335棟、準半壊1862棟、一部損壊2万5327棟の被害が発生していて(2022年(令和4年)6月3日現在)、住家の速やかな修繕・再建が望まれている。
ところで、令和4年福島県沖地震の被災自治体では、準半壊以上の被災住家をもって、災害救助法の応急修理制度の対象としているところ、半壊以下の住家はいわゆる被災者住宅再建支援法による支援制度の対象とならないため、半壊及び準半壊の被災者は、応急修理制度を利用して住家の修繕をせざるを得ない。
しかるに、当会災害復興支援特別委員会が戸別訪問等で相談・調査したところによると(以下「本件戸別訪問相談」という。)、罹災判定申請及び応急修理制度の申請期限が一部自治体で2022年(令和4年)5月末日で終了すると広報されていることがわかった。被災者からは、新型コロナウイルス禍による人件費の高騰及び人工の不足、並びにウッドショック及びウクライナ情勢等の下での資材費の高騰等の事情により、家屋の修理の予定が立っていないのに、応急修理制度の申請期限が終了するとの情報が自治体から広報されていて、対応に苦慮している旨の申告を受けている。
もともと、応急修理制度は「大規模な補修をしなければ居住することが困難である程度に住家が半壊した者」に対して行うものである(「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(平成25年10月1日内閣府告示第228号)第7条第1号、以下「基準」という。)。
被災住家の応急修理が被災後2か月半で完了するとは限らないのであって、地震発生からわずか2か月半しか経過していない5月末を期限に応急修理制度の申請を打ち切ることは、基準は想定していないというべきである。
また、罹災証明書が応急修理にも活用されていることからすると、罹災判定申請を被災後2か月半程度で打ち切ることも、基準は想定していないというべきである。
⑵ 他方、いわゆる応急仮設住宅は、被災により「居住する住家がない者」とされていて(「基準」第2条第2号)、応急修理制度を利用した者は「居住する住家がない者」に当たらないとして入居資格が否定されることとなるが、応急仮設住宅を供与することができる期間は2年とされている(建築基準法第85条第4項)。
つまり、応急仮設住宅に入居した被災者は、応急修理制度の趣旨から、少なくともこの2年間は、応急修理制度を利用するかどうか、検討することが可能となる建付けになっている。
⑶ 以上より、応急修理制度の申請期間を2か月半程度で打ち切ることは、応急修理制度の趣旨や応急仮設住宅の供与期間等、関係法令に抵触する運用であり、応急修理制度の申請期限を少なくとも2年として運用されるのが基準の趣旨ひいては災害救助法の趣旨に適合するものというべきである。
よって、緊急提言の趣旨第1項のとおり提言するものである。
 2 緊急提言の趣旨第2項について
⑴ 「基準」第7条によると、「住宅の応急修理」は「居室、炊事場、便所等日常生活に必要最小限度の部分に対し、現物をもって行うものとし、その修理のために支出できる費用は、1世帯当たり65万5000円以内とすること」とされ、また、準半壊世帯については31万8000円以内とするとされている(第2号)。
ところで、本件戸別訪問相談の結果を踏まえると、相談同行の建築士から、上記1に指摘のとおり、新型コロナウイルス禍による人件費の高騰や人工の不足、ウッドショック及びウクライナ情勢等の事情下で資材費が高騰し、修理費用は従前の2倍程度になっているとのことであり、被災者の住宅修繕に支障をきたしている。
もともと、東日本大震災における被災地からも、当時の費用の上限は「居住する住居」を確保するには不足しているとの指摘がなされていたところ、昨今の国内外の情勢を踏まえると、必要な価額との乖離がますます広がっていると言わざるを得ない。
ちなみに、現在、応急仮設住宅の資格要件として、応急修理制度を利用していないことが求められていることからすれば、応急修理制度はこれによって応急仮設住宅と同程度の住環境が整えられることを前提としているといえる。
⑵ この点、「基準」第2条第2号(応急仮設住宅)イは、建設型応急住宅の設置のために支出できる費用は、1戸当たり628万5000円以内とすること、としている。
応急修理のために支出できる費用に関する現行の上限額は、建設型応急住宅の設置費用と比較しても、余りにも少ない。
よって、建設型応急住宅の設置費用並みとはいわないまでも、応急修理制度の費用価額の上限を現行の2倍程度に増額することを求め、緊急提言の趣旨第2項のとおり提言するものである。
3 緊急提言の趣旨第3項について
⑴ 東日本大震災の被災地や大阪北部地震の被災地でも問題視されていたところであるが、令和4年福島県沖地震の被災地においても、トイレ、風呂、台所及び屋根(以下「住家利用必須箇所」という。)の一部が損傷したために、住宅としての利用に大きく支障が生じているものの、罹災判定認定が「一部損壊」とされ、修理に支障をきたしているケースが多発している。
これを、東日本大震災や大阪北部地震の被災地における「災害に係る住家の害認定基準運用指針」(内閣府《防災担当》)(以下「被害認定基準運用指針」という。)の運用実態でみると「住家の損壊、消失、流失した部分の床面積の延べ床面積に占める損壊割合」が判定基準として採用されていたため、住家利用必須箇所の経済的効用の滅失が適正に評価されていなかったということができる。
⑵ この点、「被害認定基準運用指針」(令和3年3月)は、併せて、水害(外水氾濫)についてであるが、「浸水することによる住家の機能損失等の損傷」を住家被害として措定しているものの、この措定が地震の際の住家利用必須箇所の被害認定に及んでいないことが問題として指摘できるものである。
地震の場合であっても、外力によってトイレ等の経済的効用が滅失する点では水害(外水氾濫)と共通していることからすると、洪水(外水氾濫)の場合と同様に、「機能損失等の損傷」に着目した被害認定がなされることによってはじめて、住家利用必須箇所その経済的効用の滅失が適切に評価される。
⑶ そこで、当会は、以上の問題を解決するために、住家等必須箇所が損傷した場合には、中規模半壊に該当するとして、加算支援金(100万円を上限とする)の支給対象にできるように、「被害認定基準罹災判定運用指針」が改定されることを求める。すなわち、改定により、風呂、トイレ、台所及び屋根が損壊した被災者の住家が、応急修理制度及び被災者生活再建支援制度の利用によって修繕されることが可能となるものである。
よって、緊急提言の趣旨第3項のとおり提言するものである。
4 緊急提言の趣旨第4項について
⑴ 令和4年福島県沖地震では、宮城県内では、いわゆる賃貸型応急住宅(みなし仮設)への被災者の入居が開始されている。この賃貸型応急住宅の供与にあたっては、家賃の自己負担はないものの、対象物件は宮城県内の民間賃貸住宅に限定されている。
しかるに、令和4年福島県沖地震において、被災地域の経済圏や社会的事情、特に住宅事情の関係で、被災者が宮城県外の借家に移転する事態が想定されるが、自治体間で協議されない限り、宮城県外の借家に仮に住まいを定める被災者は、家賃を自己負担せざるを得ない。
令和元年台風19号の被災者については、台風19号の被災後、被災地外の自治体に住家を賃借し、賃貸型応急仮設の措置が講じられなかったため、賃料を自己負担し、その結果、自宅の修繕費用の捻出に支障を生じているケースが確認されている。この方は、本件戸別訪問相談の対象者であり、多重被災者であった。
東日本大震災の際には、被災自治体の外の自治体に住家を賃借し賃貸型応急住宅の措置が取られた事例が多数あり、災害からの復興に役立ったが、令和元年台風19号の際には、自治体がこのような被災者について同様の措置をとらなかった(あるいは措置から漏れたものがあった)模様である。
⑵ 台風にしても地震にしても、当該被災した地域の住宅事情、被災者の通勤経路、被災家族の生活圏、経済圏等の事情により、被災自治体内に適切な賃貸物件を見つけることができず、被災者が他の自治体に仮の住まいを求めざるを得ないことは容易に想定される。したがって、令和4年福島県沖地震についても、宮城県外に仮の住まいを求めた被災者についても賃借型応急住宅の措置をとるよう、きめ細かい対応が必要となる。
よって、緊急提言の趣旨第4項のとおり、提言するものである。

以 上

ホームへ

  • 紛争解決支援センター
  • 住宅紛争審査会
  • 出前授業・出張講座
  • 裁判傍聴会のご案内
  • 行政の方はこちら
仙台弁護士会の連絡先
〒980-0811
宮城県仙台市青葉区一番町2-9-18
tel
  • 022-223-2383(法律相談等)
  • 022-223-1001(代表電話)
  • 022-711-8236(謄写関係)
FAX
  • 022-261-5945