弁護士会ホーム > 安倍晋三元内閣総理大臣の国葬の実施に反対する会長声明

安倍晋三元内閣総理大臣の国葬の実施に反対する会長声明

2022年09月07日

1 岸田内閣は、安倍晋三元内閣総理大臣の国葬を本年9月27日に行うこと、国葬費用として2億4940万円(警備費や海外要人の接遇経費は別途)を予備費から支出することを閣議決定した。また、本年9月6日、松野博一官房長官の記者会見において、警備費や海外要人の接遇費なども含めた全体の費用は総額16億6000万円程度になるとの見通しが示されている。
 しかし、岸田内閣が閣議決定した国葬の実施については、以下に述べるとおり、法律による行政の原理、財政民主主義、国民の思想・良心の自由等の各観点から、看過することができない問題がある。

2 「国葬」は、大日本帝国憲法下では、天皇の勅令である「国葬令」(1926年10月21日公布)に基づき行われていたが、日本国憲法の制定後、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」第1条により、1947年12月31日の経過をもって失効した。すなわち、同法第1条は、法律を以て規定すべき事項を規定するものは、改めて法律を定めない限り同日の経過をもって失効するとされるものであるところ、「国葬」は法律を以て規定すべき事項であると解されていたといえる。
戦後唯一、1967年に行われた吉田茂元内閣総理大臣の国葬については、翌年の国会答弁で当時の大蔵大臣が「法令の根拠はない」と答弁している。また、1975年に死亡した佐藤榮作元内閣総理大臣の国葬が検討された際にも、「法的根拠が明確でない」とする当時の内閣法制局の見解等によって実施が見送られた経緯がある。その後、現在まで、「国葬」に関する法律は制定されていない。

3 一般に国葬とは、国家に功労のあった人の死に際し、国家の儀式として、国費をもって行われる葬儀である。政府が計画する国葬の内容は現時点で明らかにされていないものの、国葬の本質は特定の故人の功労を称え世間に広く追悼を求めるものであり、国葬に内在する同調圧力の強さからして、国民の思想・良心の自由を脅かすおそれがある。また、特定の個人について特別に国葬を実施することは、法の下の平等原則(憲法第14条)の観点から、合理的根拠や基準が必要である。
日本国憲法は、三権分立を定め、国会を唯一の立法機関とし、行政活動は国会の制定する法律の定めるところにより、法律に従って行わなければならないとしている(法律による行政の原理)。この原理からすれば、国葬は、内閣の閣議決定のみによって実施するのではなく、主権者たる国民の代表機関である国会が制定する法律により国葬の要件や国民の思想・良心の自由等を侵害しないための規定を定める必要があり、その内容も客観的かつ合理性のあるものでなければならない。
これに対し、政府は、内閣府設置法(1999年制定)第4条第3項第33号で内閣府の所掌事務とされている「国の儀式」として閣議決定をすれば国葬の実施が可能との見解を示している。しかし、内閣府設置法は内閣府の行う所掌事務を定めた単なる組織規範に過ぎず、国葬の要件や国民の基本的人権を侵害しないための実体的規定を定めるものではないから、国葬実施の根拠規範にはなりえないというべきである。

4 政府は安倍元内閣総理大臣の国葬費用を全額国費(予備費)から支出する旨閣議決定したが、そもそも予備費(憲法第87条)が国会による事前議決の例外である以上、補正予算の措置(財政法第29条第1号)が可能である場合にはその方法によるべきである。安倍元内閣総理大臣の国葬の実施について、補正予算を組まず予備費でまかなうべき緊急性や必要性は見いだしがたく、それらについて政府からの説明はない。国葬の補正予算を国会で審議することなく、閣議決定のみに基づいて多額の国葬費用を国費から支出することは、財政民主主義(憲法第83条、第85条)の趣旨に反する。

5 日本国憲法は、第19条において思想・良心の自由を保障している。
政府は、安倍元内閣総理大臣の国葬をする理由について、安倍元内閣総理大臣の業績を評価して国全体として弔意を示すべきであるなどと説明する一方、国民に喪に服することを強制するものではないと説明している。しかし、国家権力を行使する政府の主導により国全体として弔意を示すべきであるとして国葬を執り行えば、公的機関のみならず、民間の機関においても忖度する風潮が生じ、「自主的」の名の下に、事実上の弔意強制が様々な形でなされることが懸念される。弔意を捧げることに違和感や反対の意見を有する者の思想・良心の自由を事実上脅かすおそれは否定できない。
現に、仙台市教育委員会では、仙台市長の承認の下、国葬に先立つ安倍元内閣総理大臣の葬儀に合わせて本年7月11日から12日にかけて、全市立学校に半旗の掲揚を求め、更に、国葬の際も政府の要請があれば半旗の掲揚を求めるとの報道がなされている。「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と定める教育基本法第14条第2項に抵触しかねない動きは既に始まっており、忖度と同調を求める動きは今後も拡がることが懸念される。

6 以上のとおり、法律による行政の原理、財政民主主義等に照らし、閣議決定のみによって国葬を実施することは認められない。また、国民の思想・良心の自由が脅かされるおそれがある。よって、当会は、閣議決定に基づく安倍元内閣総理大臣の国葬の実施に強く反対するものである。

2022年(令和4年)9月7日
仙 台 弁 護 士 会
会 長  伊 東 満 彦

ホームへ

  • 紛争解決支援センター
  • 住宅紛争審査会
  • 出前授業・出張講座
  • 裁判傍聴会のご案内
  • 行政の方はこちら
仙台弁護士会の連絡先
〒980-0811
宮城県仙台市青葉区一番町2-9-18
tel
  • 022-223-2383(法律相談等)
  • 022-223-1001(代表電話)
  • 022-711-8236(謄写関係)
FAX
  • 022-261-5945