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特定秘密保護法の廃止を求める決議

2014年02月22日

特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)(以下,「本法律」という。)は,2013年(平成25年)12月6日に参議院で可決成立し,同月13日に公布され,1年以内に施行されることとなった。

しかし,本法律は,当会がこれまで指摘してきたように,以下のとおり,憲法上看過できない重大な問題がある。

第一に,国民の知る権利の保障及び国民主権の原理にもとる点である。

国政に関する情報を国民が知る権利(憲法第21条)は,国民主権(憲法前文,第1条)の実現のためには必要不可欠のものである。そして,知る権利の保障を実質化するためには情報公開と内部告発者保護の充実が必要である。また,一定の事項を例外的に一時的に行政機関が秘密にしようとする場合であっても,秘密とすべき情報の限定や行政機関の説明責任,及び違法不当な秘密指定をチェックし是正するための監視機関が必要である。

ところが,本法律は,特定秘密の範囲も広範かつ不明確であり,秘密指定の有効期間も最長30年間という原則に大幅な例外を加えて秘密指定の半永久化を許容する一方で,秘密指定をする行政機関の長の説明責任を明記せず,恣意的な秘密指定をチェックし是正するための監視機関も設けていない。さらには,内部告発者に対する保護規定も設けていない。このように,本法律は,知る権利の保障及び国民主権の原理にもとるものである。

第二に,刑罰の広範化・重罰化による国民やメディアに対する萎縮効果である。

本法律では,特定秘密取扱者による故意の漏えいのみならず過失漏えいも処罰の対象としているほか,「特定秘密を保有する者の管理を害する行為」,共謀,教唆及び扇動も犯罪行為とされ,その処罰範囲は広範化し,国民やメディア関係者も処罰対象から除外されていない(第23条から第27条)。そして,何が特定秘密に指定されているかは一般市民には知らされないため,どのような行為がどの時点で犯罪となるのかが予測困難であり,罪刑法定主義(憲法第31条)の観点から重大な疑義がある。

そして,このような処罰範囲の広範化は,捜査機関による逮捕・捜索・押収といった市民生活への介入拡大の契機となりうるものであり,漏えい行為等の法定刑が国家公務員法や自衛隊法に比して著しく重くなっていることをも併せ考慮すると,国民やメディアによる情報収集活動や政府の行為に対する監視活動に対する萎縮効果は否定できない。

第三に,国民のプライバシーや思想・良心の自由を侵害する危険を有する点である。

特定秘密を取扱う者を選別する適性評価制度は,特定有害活動及びテロリズムとの関係,犯罪・懲戒歴や薬物の乱用又は影響に関する事項,精神疾患に関する事項,飲酒についての節度に関する事項,信用状態等といった機微にわたるプライバシー情報を調査するとともに(第12条2項),本人の友人等についてまで調査するおそれがあり,プライバシー(憲法第13条)や思想・良心の自由(憲法第19条)を侵害する危険がある。

第四に,被疑者・被告人の防御権及び裁判を受ける権利を侵害しかねない点である。

秘密漏えい行為等による本法律違反被告事件において,政府は,特定秘密の内容を明らかにしなくても,当該秘密文書の作成過程や特定秘密に指定された手続や秘密指定を相当とする理由などの外形的事実から秘匿の必要性が実質的にあることを立証する方法(外形立証)により,実質秘性を立証できると答弁している。この場合,被告人側において実質秘性の反証を行うことになるが,外形的事実に関する反証に限定されてしまっては防御権の行使は著しく制約されてしまう。

さらに,本法律では,刑事訴訟の公判前整理手続における証拠提示命令(刑事訴訟法第316条の27第1項)による特定秘密の提供を規定しているが(第10条1項1号ロ),行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があると判断すれば提示拒否が許容されている。

そのため,刑事訴訟において,「特定秘密」の内容が明らかにされないまま有罪とされてしまうおそれも否定できず,被告人の防御権及び裁判を受ける権利(憲法第31条,第32条,第37条,第82条)を侵害しかねない。

また,起訴前の段階では,被疑者や弁護人,裁判官が特定秘密の内容を知る制度的保障が全くないため,被疑者の防御権を侵害しかねない。

第五に,国会・国会議員の活動を制約しかねない点である。

本法律では,国会議員への特定秘密の提供は行政機関の長等の裁量に委ねられており(第10条),議院の国政調査権(憲法第62条)や議員の質問権(国会法第74条から第76条)を制約しかねない。加えて,特定秘密を漏えいした国会議員も処罰(過失も含む)の対象としており(第23条2項・3項・5項,第10条1項1号イ),国会議員が国会(秘密会)で知得した「特定秘密」に係る情報に関する議論を他の議員等とすることができなくなってしまう。これでは,国会議員が効果的な議員活動を行うことが困難となってしまい,国会が行政をコントロールする議院内閣制(憲法第66条3項等)や国会の最高機関性(憲法第41条)に抵触する。

第六に,立法事実が存在しない点である。

本法律は,国民主権を支える知る権利その他の人権を侵害しかねないものであり,そのような立法をする場合には,その立法が必要であることを裏付ける事実が存在しなければならない。しかし,従前の秘密保護法制(国家公務員法,自衛隊法,MDA秘密保護法,特別刑事法等)よりも処罰範囲を拡大し,重罰化し,プライバシー侵害等の危険のある適性評価制度を法制化する必要性を裏付ける事実が存在するとは到底いえない。立法事実が存在せず,その存在についての説明が十分になされていない以上,本法律は立法の基礎を欠くというべきである。

以上のとおり,本法律は,法律の重要ないし基本的な事項に憲法上重大な問題をもち,かつ立法事実も存在しないため,部分的な修正では対処できないものであり,廃止しかない。

よって,当会は,本法律の廃止を求める。

2014年(平成26年)2月22日

                      仙 台 弁 護 士 会

                        会長 内 田 正 之

 

 

 

提 案 理 由

 

第1 はじめに

1 制定経過

特定秘密の保護に関する法律(以下,「本法律」という。)は,2011年(平成23年)8月8日に秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議が公表した「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」をもとに法案化作業が進められてきた。その間,法案化作業の全容が明らかにされることはなく,2013年(平成25年)9月3日から実施されたパブリックコメントの際に法案の概要がようやく示された。パブリックコメントは,わずか15日間という短期間であったにもかかわらず,約9万件の意見が寄せられ,その約77%が反対意見であった。本来であれば,パブリックコメントに寄せられた意見を踏まえ,法案の提出断念も含めて慎重に検討されるべきであったが,パブリックコメント終了後わずか9日目の同年9月26日に法案が公表された。

政府は,同年10月25日に秘密保護法案を臨時国会に提出した。そして,法案は11月7日から衆議院で審議が開始され,同月25日の福島公聴会では公述人全員が反対又は慎重審議を求める意見を述べたにもかかわらず,翌26日に衆議院で自民党・公明党・みんなの党・日本維新の会の4党による修正案が強行採決された。参議院においても,わずか20時間余りの審議で,12月6日に強行採決がなされ,可決成立した。

2 本決議の意義

当会は,有識者会議報告書が公表されて以降,2011年(平成23年)12月14日に「秘密保全の法制の在り方について(報告書)」に対する意見を表明したことをはじめ,適時に秘密保護法案の問題点を指摘し,同法案に反対してきた。しかし,本法律は,当会が指摘してきた問題点について何ら克服・改善されていない。

本法律が国民主権を支える知る権利を侵害しかねないものであり,また他の基本的人権との関係においても重大な問題を孕むことから,当会は,改めて本法律の問題点を指摘し,同法の廃止を求める。

 

第2 知る権利の保障及び国民主権の原理にもとること

1 知る権利の保障

国民主権(憲法前文,第1条)の下において国民が国政について意思決定をするには,国政に関する情報が国民に共有されることが必要不可欠である。それ故に,国民の知る権利は民主政に資するものとして,憲法第21条で保障されている。

知る権利の保障を実質化するためには,恣意的な情報隠しを阻止する情報公開制度・公文書管理制度の充実が必要であり,また内部告発者の保護も必要である。また,知る権利が国民主権を支える重要な基本的人権であることに鑑みると,その制約が正当化されるためには,制約を必要とする社会的事実(立法事実)が存在しなければならず,かつ,その制約が目的達成のための必要最小限度のものでなければならない。

2 ツワネ原則~知る権利と国家安全保障の関係

(1)2013年(平成25年)6月12日,70か国以上の500人を超える専門家によって起草された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)」が発表された。ツワネ原則は,自由権規約第19条(表現の自由及び知る権利に関する規定)等を踏まえ,国家安全保障分野において立法を行う者に対して,国家安全保障上の理由による情報非公開と,政府情報への国民のアクセス権を保障することとの両立を図って作成された実務的ガイドラインであり,知る権利の制約の必要最小限度性を検討する上でも重要である。

同原則の概要は,以下のとおりである。

(2)国家秘密の存在を前提にしつつも,誰もが公的機関の情報にアクセスする権利を有しており,その権利を制限する正当性を証明するのは政府の責務である(原則1,4)。

(3)政府の人権法・国際人道法違反の事実や大量破壊兵器の保有,環境破壊など,政府が秘密にしてはならない情報を列挙している(原則10)。

(4)秘密指定は,必要な期間にのみ限定してなされるべきであり,政府が秘密指定を許される最長期間を法律で定めるべきである(原則16)。

(5)市民が秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきである(原則17)。

(6)刑事訴訟において,いかなる場合でも,被告人が証拠について精査,反論する機会を持たないまま有罪判決を下したり,自由を剥奪したりすべきではない(原則29(b))。法的公正さの点から,公的機関は被告人と弁護人に対し,その被告人が問われている容疑と,公正な裁判を確実に行うために必要なその他の情報を,たとえ秘密扱いの情報であっても,公共の利益を考慮した上で,開示するべきである(原則29(c))。公正な裁判を保障するために必要な情報の開示を公的機関が拒んだ場合,裁判所は審理を停止,若しくは起訴を棄却すべきである(原則29(d))。

(7)安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきであり,この機関は実効的な監視を行うために必要な全ての情報に対してアクセスできるようにすべきである(原則6,31,32,33)。

(8)人権侵害,国際人道法違反,公衆衛生と公共の安全に対する危険,環境に対する危険,職権濫用等の不正行為については,それらの秘密指定のいかんにかかわらず,所定の条件を満たせば,その開示(内部告発)は保護されるべきであり(原則37),刑事上及び民事上の責任の対象とされるべきではない(原則41)。また,不正行為に該当しない情報を開示した場合又は所定の条件を満たさない場合であっても,開示された情報による公益が秘密保持による公益を上回る場合には公益的保護を保障すべきであり(原則43),刑事処罰の対象とされるべきではなく,刑事訴追される場合であっても,開示が重大な損害を引き起こす現実的かつ特定可能な危険がなければならず,開示による公益よりも非開示による公益が大きい場合に限って刑事訴追が許されるべきである(原則46)。

(9)公務員でない者は,秘密情報の受領,保有又は公衆への公開により,又は秘密情報の探知,アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではない(原則47)。また,公務員でない者は,情報流出の調査において,秘密の情報源やその他の非公開情報を明らかにすることを強制されるべきではない(原則48)。

3 特定秘密の広範性・不明確性・指定期間の半永久性

(1)特定秘密の広範性・不明確性

本法律では,別表で定める防衛,外交,特定有害活動の防止,テロリズムの防止の各事項に関する情報が特定秘密の対象になるとされているが(第3条1項),別表の記載は抽象的であるほか,「その他の重要な情報」などといった記載もあり,限定機能は乏しく,広範な国政に関する情報が特定秘密になりうる。特定秘密の指定等に関する統一的な運用基準が定められることとなったものの(第18条1項),その運用基準に従って適正な秘密指定等がなされることの担保はなきに等しい。政府は,内閣総理大臣の行政各部に対する指揮監督によるチェック機能がある旨述べる。しかし,内閣総理大臣が秘密指定等の全てをチェックすることは現実的に不可能であり,内閣府に設置されると言われている「保全監視委員会」(仮称)も行政内部の組織であり,恣意的な秘密指定等に対するチェック機能は期待できない。

また,本法律には,ツワネ原則が求めている秘密指定についての政府の説明責任(原則1,4)や,秘密指定禁止条項(原則10)もない。

(2)指定期間の半永久性

本法律は,「特定秘密」の指定の有効期間を5年以内としつつ,その延長も認め,原則最長30年間としている(第4条3項)。

しかし,同法は第4条4項で最長60年までの例外を大幅に許容している。また,「武器,弾薬,航空機その他の防衛に用に供する物」や「情報収集活動の手法または能力」,「政令で定める重要な情報」などは60年を超えて秘密指定できることになっており(第4条4項),秘密指定の半永久化を許容している。

これでは,恣意的な秘密指定が永続するおそれがある。

4 独立した監視機関の不存在

(1)行政機関による秘密指定に関する独立した監視機関の必要性は,ツワネ原則でも述べており(前記2(7)),諸外国においても次のような監視機関が設置されている。

アメリカでは,議会の特別委員会,機密指定に関する行政機関内部からの異議申立制度,情報保全監察局長(国立公文書館の部局)による機密解除請求などの制度が存在する。

イギリスでは,議会情報安全保障委員会が,情報や安全保障問題に関する政府の活動を精査又は監視し,対象機関に対して情報の開示を強制する権限も付与されている。

ドイツでは,議会監督委員会が,情報機関(連邦憲法擁護庁,軍事防諜局及び連邦情報局)に情報開示を求める権限,情報機関の職員に事情聴取を行う権限,情報機関の事務所立ち入り権限等を有する。

フランスでは,裁判官及び国会議員で構成される独立の行政機関として国防秘密査問委員会があり,国防秘密の指定解除・公開についての助言を行う。同委員会には秘密情報へのアクセス権限等が認められている。

(2)しかるに,本法律では,独立した監視機関を設けていない。

政府は,参議院での審議の中で4つの組織の設置を表明したが,以下のとおり,いずれも独立した監視機関とは評価できない。

一つ目は,「情報保全諮問会議」である。しかし,これは内閣情報調査室が策定する「特定秘密」指定等の統一基準について意見を述べるにとどまり(第18条2項),個々の秘密の内容をチェックする権能を有さないため,「特定秘密」指定の恣意性を排除する担保措置には全くならない。

二つ目は,「保全監視委員会」(仮称)である。これは,特定秘密の指定,解除,適性評価の実施の適正を確保するために,第18条4項により内閣総理大臣が行う行政各部に対する指揮監督を果すことに資するために内閣官房に設置される組織とされ,事務次官級を中核に構成されると説明されている(平成25年12月4日参議院国家安全保障に関する特別委員会における内閣総理大臣答弁)。しかし,これは行政内部の官僚組織であり,恣意的な秘密指定等に対するチェック機能は期待できない。

三つ目は,「独立公文書管理監」(仮称)である。これは,特定秘密の記録された公文書の廃棄の可否を判断する機関で,内閣府に設置され,審議官級で構成されると説明されている(平成25年12月4日参議院国家安全保障に関する特別委員会における内閣総理大臣答弁)。しかし,独立公文書管理監にいかなる権限が付与されるのかが不明なため,実効性に疑問がある。また,これも行政内部の官僚組織であるため,恣意的な公文書廃棄のおそれは払拭できない。

四つ目は,「情報保全監察室」(仮称)である。これは,内閣府に20人規模で設置され,各行政機関による個別の特定秘密の指定及び解除の適否を検証及び監察し,不適切なものについて是正を求めることなどを想定していると説明されている(平成25年12月5日参議院国家安全保障に関する特別委員会における菅国務大臣答弁)。局への格上げも想定されており,附則第9条を踏まえた機関であると位置付けられる。しかし,これも行政内部の官僚組織であるため,恣意的な秘密指定等に対するチェック機能は期待できない。

5 内部告発者保護の規定の不存在

本法律には,内部告発者を保護する規定がなく,不正行為に関する情報を特定秘密指定することを禁止する旨の規定もないことを併せ考慮すると,不正行為に関する特定秘密を内部告発した者さえも秘密漏えい罪に問われるおそれがある。これでは,内部告発が抑制され,国民が知るべき情報を知らされないままになってしまうおそれがある。

6 小括

以上のとおり,本法律は,恣意的な特定秘密指定を排除する仕組みを有しておらず,ツワネ原則にも抵触している。そして,後述する刑罰規定と併せ考慮すると,本法律は,国民の知る権利を恣意的な特定秘密指定と刑罰規制によって規制するものであり,国民の知る権利の保障及び国民主権の原理にもとるものである。

 

第3 刑罰の広範化・重罰化による萎縮効果

1 罪刑法定主義との関係

(1)犯罪と刑罰を国会の定める法律により具体的かつ明確に規定しなければならないという罪刑法定主義は,自由かつ民主的な社会生活を送るためには必要不可欠であり,憲法第31条により保障されると解されている。

しかるに,本法律では,特定秘密の範囲が広範かつ不明確であり,国民には何が特定秘密なのかは分からないため,漏えい行為等の構成要件の主要な要素である特定秘密の内容が具体的かつ明確に定められていないことになり,罪刑法定主義の観点から重大な疑義がある。

また,本法律は,犯罪行為として特定秘密取扱者による故意の漏えい行為にとどまらず,過失による漏えい行為や漏えい行為の未遂も対象にしている(第23条3項・4項)。そればかりでなく,本法律は,漏えい行為の共謀,教唆及び扇動や,特定秘密の取得行為(特定秘密の管理侵害行為)とその行為の未遂,共謀,教唆及び扇動を対象にして(第24条から第27条),特定秘密取扱者以外の者も処罰対象に加えている。そのため,上記特定秘密の不明確さとも相まって,犯罪行為の範囲の外延が不明確となってしまい,この点でも罪刑法定主義の観点から重大な疑義がある。

(2)このような罪刑法定主義の観点から重大な疑義のある本法律の下では,取材活動の萎縮や知る権利に対する制約をもたらすおそれが大きい。

この点,本法律は,国民の知る権利の保障に資する報道の自由又は取材の自由に配慮する旨の規定を盛り込んでいる(第22条)。しかし,判例上,知る権利や報道の自由が憲法第21条の保障のもとにあることは確立されており,取材の自由も同条の趣旨に照らし十分尊重に値するものとされているのであるから,改めてその文言を規定する意味は乏しい。むしろ,「処罰しない」「逮捕・捜索・押収しない」という明記がない以上,取材活動などの国民の自由に対する萎縮効果をぬぐい去ることはできない。

2 重罰化について

秘密の保護については既に国家公務員法や自衛隊法,MDA秘密保護法(日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法),及び刑事特別法(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法)等によって秘密漏えい行為等に対する罰則が設けられており,故意の漏えい行為については自衛隊法が懲役5年以下,MDA秘密保護法及び刑事特別法が懲役10年以下という重罰が定められている。

しかるに,有識者会議報告書で示されている過去の秘密漏えい事案をみても,実刑判決がなされているのは自衛隊法違反の懲役10月のみであり,他の有罪判決においてもMDA秘密保護法違反の懲役2年6月・執行猶予4年であり,懲役10年・罰金1000万円という重罰を設ける必要性は認められない。

 

第4 国民のプライバシー,思想・良心の自由侵害の危険

1 プライバシー侵害の危険

特定秘密を取扱う者を選別する適性評価制度は,特定有害活動及びテロリズムとの関係,犯罪・懲戒歴や薬物の乱用又は影響に関する事項,精神疾患に関する事項,飲酒についての節度に関する事項,信用状態等といった機微にわたるプライバシー情報を調査するとともに(第12条2項),本人の友人等についてまで調査するおそれがあり,プライバシー(憲法第13条)を侵害する危険がある。他方で,過去の情報漏えい事案を見ても,必ずしも上記調査事項に係る属性を持った人物が情報漏えいをしたわけではなく,このような調査による人的管理の実効性があるのかは疑問である。

また,行政機関の長は,適性評価のための調査として,「公務所若しくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」(第12条4項)とされており,特定秘密取扱候補者の病状・入通院履歴や電話・メールの発信受信履歴なども調査することができる。

この点,本法律は,適性評価のための調査について予め評価対象者から同意を得る旨定めている(第12条3項)。しかし,同意を拒否することは事実上不可能であり,同意は事実上強制されることになりかねず,同意の存在をもってプライバシー侵害を解消することにはならない。

2 思想・良心の自由の侵害の危険

適性評価制度は,評価対象者の「特定有害活動及びテロリズムとの関係に関する事項」を調査する(第12条2項1号)。特定有害活動とは,「公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動」等「であって,外国の利益を図る目的で行われ,かつ,我が国及び国民の安全を著しく害し,又は害するおそれのあるもの」のことをいうが,特定秘密は我が国の安全保障のために特に秘匿を要する情報とされているため,特定秘密の取得活動を行えば,我が国の安全保障を害する目的がある,即ち「外国の利益を図る目的がある」と事実上推定されてしまうおそれがある。つまり,特定秘密を取得するための探知・取材などの活動をしているだけで「特定有害活動」と推定され,活動を調査されてしまうおそれがある。また,テロリズムとは,「政治上その他の主義主張に基づいて」,一定「の目的で人を殺傷し,又は重要な施設その他の建物を破壊するための活動」のことをいうが,政府に批判的な主張をする者は人を殺傷したり施設を破壊する可能性があるとして,事前にその「政治上その他の主義主張」が調査されてしまうおそれがある。

このように,適性評価制度は,思想・良心の自由を侵害しかねない。

3 評価対象者以外の者のプライバシー,思想・良心の自由の侵害の危険

以上のようなプライバシーや「政治上その他の主義主張」に関する調査は,評価対象者本人だけでなく、その周りの家族や友人にも及ぶおそれがある。なぜなら、既に自衛隊で実施されている適格性確認制度の下では,評価対象者に対し、その友人の氏名・住所・勤務先等を申告させており、当該友人の身上を調査している可能性があるからである。

 

第5 被疑者・被告人の防御権・裁判を受ける権利の侵害の危険

1 刑事訴訟手続における防御権・裁判を受ける権利の侵害の危険

(1)被告人の防御権・裁判を受ける権利の侵害の危険

本法律は,刑事事件の捜査又は公訴の維持の業務であって,刑事訴訟の公判前整理手続における証拠提示命令(刑事訴訟法第316条の27第1項)による場合,及び当該捜査又は公訴の維持に必要な業務に従事する者以外の者に当該特定秘密を提供することがないと認められるものに特定秘密を提供をすると規定している(第10条1項1号ロ)。

しかし,同号柱書では,上記の各場合に特定秘密を提供するための要件として,①当該特定秘密を利用し,又は知る者の範囲を制限すること,②目的外利用されないようにすることその他の当該特定秘密を利用し,又は知る者が当該特定秘密を保護するために必要なものとして政令で定める措置を講じること,③我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認められること,が定められている。そのうち,③の判断は行政機関の長が行うと解されるため,行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があると判断すれば提示拒否が許容される仕組みになっている。

また,証拠開示命令(刑事訴訟法第316条の26)に対する特定秘密提供の規定がないため,特定秘密の指定解除がなされない限り,特定秘密を開示しない可能性もある。この点,政府は「インカメラ審査を経た後,証拠開示命令が出された場合には,証拠として開示をされることになります。」と答弁しているが(平成25年12月2日参議院国家安全保障特別委員会における森まさこ大臣答弁),そうであれば本法律にもその旨を明記すべきであった。

証拠提示命令や証拠開示命令にもかかわらず行政機関の長が特定秘密を提供しない場合には,特定秘密の内容が被告人や弁護人のみならず裁判官にすら明らかにされないまま審理が進み,尋問や論告,弁論も特定秘密に関する部分が制限され,そのまま有罪とされてしまうおそれも否定できない。これでは,被告人の防御権及び裁判を受ける権利(憲法第31条,第32条,第37条,第82条)を侵害しかねない。

(2)被疑者の防御権侵害の危険

本法律は,上記のとおり,捜査又は公訴の維持に必要な業務に従事する者以外への特定秘密の提供を認めていない。その結果,起訴前の段階では,被疑者や弁護人,さらには裁判官が特定秘密の内容を知る制度的保障が全くないため,被疑者の防御権(憲法第31条)を侵害しかねない。

2 外形立証による有罪認定の危険

秘密漏えい行為等による本法律違反被告事件において,構成要件である特定秘密の内容が明らかにされなければ,本来は,訴因不特定として公訴棄却の判決がなされるべきである(刑事訴訟法第256条3項,同法第338条4号)。ツワネ原則も,公正な裁判を保障するために必要な情報の開示を公的機関が拒んだ場合,裁判所は審理を停止,若しくは起訴を棄却すべきとしている(原則29(d))。

ところが,政府は,特定秘密の内容を明らかにしなくても,当該秘密文書の作成過程や特定秘密に指定された手続や秘密指定を相当とする理由などの外形的事実から秘匿の必要性が実質的にあることを立証する方法(外形立証)により,実質秘性を立証できると答弁している(平成25年11月28日参議院国家安全保障特別委員会における森まさこ大臣答弁等)。この場合,被告人側において実質秘性の反証を行うことになるが,外形的事実に関する反証に限定されてしまっては防御権の行使は著しく制約されてしまう。このような外形立証が認められてしまうと,刑事訴訟は行政機関の長が行った秘密指定を追認するだけの場になってしまうおそれがある。

 

第6 国会・国会議員の活動を制約する危険

1 国政調査権や質問権に対する制約の危険

本法律は,各議院,各議院の委員会及び参議院の調査会における審査又は調査において,①当該特定秘密を利用し,又は知る者の範囲を制限すること,②目的外利用されないようにすることその他の当該特定秘密を利用し,又は知る者が当該特定秘密を保護するために必要なものとして国会で定める措置を講じること,③我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認められること,④秘密会とすることを要件として,行政機関の長が国会に特定秘密を提供する旨定めている(第10条1項1号イ)。

このうち③については,行政機関の長が判断すると解されるため,行政機関の長の裁量により特定秘密の提供不提供がなされるおそれがある。そのため,議院の国政調査権(憲法第62条)や議員の質問権(国会法第74条から第76条)が制約されかねない。

2 国会議員に対する処罰の危険

本法律は,特定秘密を漏えいした国会議員も処罰(過失も含む)の対象としており(第23条2項・3項・5項,第10条1項1号イ),国会議員が国会(秘密会)で知得した「特定秘密」に係る情報に関する議論を他の議員等とすることができなくなってしまう。これでは,国会議員が効果的な議員活動を行うことが困難となってしまい,国会が行政をコントロールする議院内閣制(憲法第66条3項等)や国会の最高機関性(憲法第41条)に抵触する。

 

第7 立法事実について

1 刑罰の広範化・重罰化を基礎付ける立法事実の不存在

我が国には,これまで包括的な秘密保護法は存在していなかったが,国家公務員法や自衛隊法,MDA秘密保護法及び刑事特別法などの秘密保護法制が存在している。これらの法律の下で,公務員による守秘義務違反が頻発したり,スパイ行為による秘密漏えいが頻発したという事実は,政府から説明されていない。

政府が挙げている秘密漏えい事件は,平成12年以降8件に過ぎず,そのうち犯罪として起訴され有罪となったのは2件のみであり,うち1件は執行猶予が付されている。しかも,有識者会議の資料によれば,これらの事件を受けて,各機関において再発防止のための対策を講じているとされている。

したがって,刑罰の広範化・重罰化するだけの立法事実の存在は認められない。

2  適性評価制度を基礎付ける立法事実の不存在

過去の秘密漏えい事案をみても,個人のプライバシーを調査して適性を評価するという手法が秘密漏えい対策として有効性があるとは認め難い。秘密漏えいは,適性評価制度による人的管理によって防止できるものではなく,電磁的記録媒体へのデータの書き出し制限,印刷・コピー時の認証機能,通信制御,アクセス制御,ログの保存等のセキュリティ機能を活用した情報管理システムの適正化や情報保全教育,サイバー攻撃に対する技術的防衛により防止することを徹底した方が効果的であると考えられ,本法律の必要性は認められない。

3 その他

その他,政府は,本法律により,在アルジェリア邦人に対するテロ事件のような事件が発生した場合に,外国の関係機関等から秘匿性の高い情報がより適切な形で迅速に提供されることが期待できる旨答弁している(平成25年11月28日参議院国家安全保障特別委員会における鈴木良之政府参考人答弁)。しかし,上記在アルジェリア邦人に対するテロ事件では他国も情報を得られなかったのであり,本法律の必要性を基礎付ける例にはならない。

第8 結論

以上のとおり,本法律は,法律の重要ないし基本的な事項に憲法上重大な問題をもち,かつ立法事実も存在しないため,部分的な修正では対処できないものであり,廃止しかない。

よって,当会は,本法律の廃止を求める。

                                  以 上

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