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平成18年3月16日意見書

2006年03月22日

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律案」に対する意見書

仙台弁護士会      

会長 松  坂  英  明

 

 

はじめに

 厚生労働省は平成18年3月7日,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律案」(以下,「法律案」という。)を第164回国会(常会)に提出した。

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下,「均等法」という。)の施行後20年を経ているが,今日のわが国の現状は,男女平等の実現にはほど遠く,パート・派遣など非正規女性労働者の増加やコース別雇用管理などにより,逆に性差別の拡大現象すらみられる。また,妊娠・出産を理由にした不利益取扱いも多発しており,このような性差別は重大な人権侵害といわなければならない。

 今回の均等法改正作業は,「男女雇用機会均等の確保を徹底するため必要な法的整備を行うべき時期にきている」との認識(中間とりまとめ)に立っており,今後の公平かつ平等な社会を築く上で大きな役割を担っているものである。

 そこで当会は,以下のとおり,実効性ある均等法の改正が行われることを求め,法律案に対して意見を表明するものである。

 

第1 意見の趣旨

  1 均等法の理念に「仕事と生活の調和」を規定すべきである。

  2 差別的取扱いを賃金についても禁止すべきである。

  3 実効的な間接差別禁止規定を導入すべきである。

  4 指針の「雇用管理区分」を廃止すべきである。

  5 募集・採用時における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止すべきである。

  6 ポジティブ・アクションを義務化すべきである。

  7 包括的差別禁止規定を新設すべきである。

 

第2 意見の理由

  1  「均等法の理念に『仕事と生活の調和』を規定すべきこと」について

 均等法において求められる平等は,男女とも「仕事と生活の調和」の上での平等であるから,その旨を基本理念(2条)に規定し,均等法解釈の基本とすべきである。即ち「仕事と生活の調和」を規定することにより,均等法において求められる平等が,今日わが国において無限定な労働を強いられている男性を基準とすべきではなく,男女とも生活との調和のとれた働き方を基準とすべきことが明確となり,同理念が均等法の具体的解釈基準としての意味を有することになるのである。また「仕事と生活の調和」については,すでに育児介護休業法において「職業生活と家庭生活との両立」(1条)として規定されているところであり,均等法の理念としても合わせてこれを規定することは自然かつ必要なことである。

 

  2  「差別的取扱いを賃金についても禁止すべきこと」について

 現行均等法は,募集・採用(第5条),配置・昇進・教育訓練(第6条),福利厚生(第7条),定年・退職・解雇(第8条)の各ステージについて差別的取扱いを禁止し,法律案は第6条で,上記の各ステージにつき,業務の配分及び権限の付与を含む労働者の配置,降格(第1号),労働者の職種及び雇用形態の変更(第3号),退職の勧奨及び労働契約の更新(第4号)についての差別的取扱いの禁止を追加しているが,賃金も差別的取扱いの禁止項目に入れるべきである。前記のとおり,現行均等法は,賃金についての差別を禁止していないため,後記3のとおり,法律案第7条により,間接差別が禁止されたとしても,賃金に関する間接差別が規制対象から除外されることになる。しかし,賃金差別は差別の最も重要かつ切実な領域であり,これを除外することは差別是正の主要部分を除外するものと言わざるを得ないことになるので,賃金についても差別的取扱いを禁止すべきである。

 

  3  「実効的な間接差別禁止規定を導入すべきこと」について

 法律案は,第7条で間接差別を禁止するともに,間接差別となるものを厚生労働省令(以下,「省令」という。)で定めることとしているが,厚生労働大臣が労働政策審議会に対して平成18年1月27日付で諮問した法律案要綱によれば,省令で定める間接差別として,①募集又は採用における身長,体重又は体力要件,②コース別雇用管理制度における総合職の募集又は採用における全国転勤要件,③昇進における転勤経験要件の3つが挙げられている。

 しかし,このような間接差別となるものを限定列挙する規定は,常に現実の後追いに過ぎない実効性を欠くものとなり,また,間接差別の対象外とされた差別を法的に許容する有害な規定となる可能性を有するものである。したがって,間接差別となるものを限定すべきではない。

 そもそも,国際的に形成されてきた間接差別禁止法理は,一方の性に対する差別的影響が存在するときに,平等実現への障害となっている差別を恒常的に抽出し,これを除去する取組みを重要な要素として形成されてきたものである。今日,差別は「明かな」男女差別ではない形態としてあらわれるものが主流になり,また,社会的状況により差別は常に形を変える。それゆえに,男女平等を実現するため,使用者に対し,制度等の導入・遂行過程で,それが性差別的効果を生じていないか・正当事由があるかの恒常的検討義務を課し,説明責任を求めるものが間接差別禁止法理である。

 ところが,前記法律案要綱どおりに,間接差別となるものが3つに限定されるときは,使用者は,これらについて間接差別を禁止されるにすぎず,差別的効果を生じ平等実現への障害となっているものは何かを恒常的に抽出し,これを除去していく義務を課せられない。これは間接差別禁止法理の本質の理解を欠くものであり,間接差別禁止法理の導入は名ばかりのものと言わざるを得ないことになる。間接差別となるものが法律案要綱どおりに限定列挙されるときは,日本における間接差別禁止制度が諸外国の間接差別禁止法理と異なった不十分な制度となってしまうことになり,今後に大きな禍根を残すことになる。

 また,間接差別となるものが上記3つに限定されると,「男女雇用機会均等政策研究会報告」の例に挙げられている「世帯主手当」差別,パートと正社員の賃金差別も対象から除外されてしまうことになる。

 以上のとおり,法律案は,国際的非難を免れるためだけに形のみの間接差別禁止規定を導入するものであり,逆に間接差別を拡大する可能性をもつものであるから,間接差別となるものを限定列挙する間接差別禁止規定には反対する。

 

 4  「指針の『雇用管理区分』を廃止すべきこと」について

 法律案では現行指針(平10労告19号)が定める「雇用管理区分」を廃止せず維持するものとされている(第10条第1項)が,雇用管理区分は,差別の温床として国際的にも問題とされてきたものであり,「雇用管理区分」に法的正当性は無いので,直ちに廃止措置を講ずるべきである。

 5  「募集・採用時における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止すべきこと」に

                                                  ついて

 法律案では,募集・採用における妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは対象とされていない(第9条)。しかし,募集・採用差別についても不利益取扱いの禁止を規定すべきである。使用者の採用・契約の自由は無制限ではなく労働者の人権保障のために規制されるものであり,既に均等法において募集・採用差別は禁止されている(第5条)。本来,妊娠・出産差別は女性差別であり,その意味からも,募集・採用においても妊娠・出産差別禁止規定をおくべきである。

 

 6  「ポジティブ・アクションを義務化すべきこと」について

 法律案は,第14条でいわゆるポジティブ・アクションにつき企業が自発的に開示を講じる場合に国が援助できると規定するに止まっている。しかし,今日企業のコスト削減競争が激化する下で,企業における平等施策は一向に進んでいない。企業へのポジティブ・アクションの義務づけが必要であり,少なくとも行動計画の作成義務づけ等,既に少子化対策等で導入している手法については男女平等に関しても義務づけるべきである。

 差別を是正するためには,「差別を禁止する」だけでなく,「積極的な」平等実現策(教育研修や透明公正な処遇制度の構築,育児・介護支援,過去に差別を受けてきた人へのサポート等)を講じ,差別を生み出す土壌を改善し,また,女性が能力を生かせる環境づくりをすることが重要なのである。

 

 7  「包括的差別禁止規定を新設すべきこと」について

 現行均等法は,雇用の各ステージについての差別を禁止するに止まり,包括的な差別禁止法とはなっていない。法律案は,雇用の各ステージに,前記2で述べたとおり,配置における業務の配分等を追加しているが,「仕事の与え方」や「雇止め」等の差別的取扱いは追加しなかった。本来,不合理な性差別が禁止されることは判例で確立しているのであるから,包括的な差別禁止規定を設けるべきである。

                                                   以 上 

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