1 2024年11月6日、2024年度司法試験の最終合格者(以下「司法試験合格者」という。)が1592人と発表された。前年度(1781人)に比べ、189人減少した。
もっとも、本年度の合格率は、42.1%であり、2021年度(41.56%)、2022年度(45.5%)、2023年度(45.3%)と同様、40%を超える合格率が続いている。
今回の司法試験の合格者もその多くが法曹となり、そのうちの大多数は弁護士登録を行うことになると見込まれる。
2 弁護士は、裁判を受ける権利を実質的に保障するために不可欠の存在であるとともに、時として国家権力と対峙せねばならない重い職責を担う。この意味で弁護士は、司法制度の一翼を担う、いわば社会的インフラである。そうである以上、弁護士には、持続的な活動を可能とするだけの強固な活動基盤が確保されていなければならない。
ところが、司法試験の合格者数が法的需要に見合わない数で高止まりして弁護士が供給過多となれば、市場原理の下で過当競争が行われる結果、過度の営利化など弊害が生じることは避けられない。また、弁護士の職務のうち、公益活動や社会的弱者のための活動には通常十分な対価が伴っておらず、営利化になじまないものも多いことから、弁護士数の増加による過当競争が生じれば、弁護士がそうした業務を持続的に行うことができなくなるという事態となりかねない。そのような事態は、上述した社会的インフラである弁護士の活動基盤の確保という要請に反する事態であり極めて問題である。
あるべき弁護士人口は、市民のリーガルサービスに対する需要を充足するという要請と弁護士の活動基盤の確保という要請を調和の上に定まるものである。したがって、弁護士人口と密接な関連のある司法試験の合格者数も、一定の数値を所与とすることなく、これらの要請の調和の上に設定されるべきである。
3 こうした観点でみると、わが国の弁護士人口の増加とリーガルサービスに対する需要の拡大が均衡しているかについては、以下のように、大きな疑問がある。
弁護士人口は、2014年3月31日時点では3万5045人だったが、2024年3月31日時点では4万5808人と10年間で1万人以上も急増している。
さらに、日本弁護士連合会による将来予測では、司法試験合格者数を年間1500人で固定した場合、2048年に弁護士人口は6万4501人とピークに達し、2060年以降は5万7000人代で推移していくとされている。2023年と2048年を比較すると、弁護士人口が25年間で約2万人も増加することになる。
その反面、わが国の国民人口は今後減少していくと予想されていることから、2023年時点の弁護士1人あたりの国民数が2770人(推計国民人口1億2440万8000人に対し弁護士人口4万4916人)であるのに対し、2060年時点では弁護士1人あたりの国民数は1665人(推計国民人口9614万8000人に対し推計弁護士人口5万7759人)と、現在の半分強になる見込みである。
なお、司法試験の合格者数を年間1000人とした場合でも、2049年には、弁護士人口は5万2432人(弁護士1人あたりの国民数が1961人)になると予測されるのであって、弁護士人口は確実に増加することになる。
他方、民事訴訟事件の新受件数(地方裁判所)も、2012年において約19万1000件であったのに対し、2022年では約12万7000件となっており、10年間で約34%減少している。刑事事件の事件総数(地方裁判所)も同様であり、2012年において約5万7000件であったのに対し、2022年では約4万2000件と、10年間で約26%減少している。この減少傾向は長期間継続しており、増加に転じる要因は見当たらない。
この点、裁判所が関わる典型的な紛争案件は減ったとしても非紛争案件及び裁判所が関わらない紛争案件は増えているとの指摘がある。しかし、非紛争案件や裁判所が関わらない紛争案件が増加し、新たな法的需要が喚起されうるとしても、そうした法的需要の増加が、裁判所が関わる法的需要の減少や人口減少に伴う法的需要の減少を補うに足りると判断すべき客観的かつ明確な根拠は見当たらない。それにもかかわらず、毎年1500人もの司法試験合格者数を維持すれば、ますます弁護士の供給過多を招くことになる。
4 2001年6月に司法制度改革審議会意見書が公表されてから24年が経過した今日、弁護士の供給過多の問題の以外にも、弁護士数が急増しているのに対して判事補や検事の採用人数は抑制されたままであること、大都市偏在の傾向が顕著になっており小規模単位会等への新規登録者数が減少していること、これに加えて国選弁護・法テラス民事法律扶助等の報酬の低廉さも相まってリーガルサービスの維持が困難となりつつあることなど、法曹養成に関連して解決しなければならない喫緊の課題が存在する。司法試験合格者数を減員してもこれらの課題が解決するものではないが、さりとて、毎年1500人もの司法試験合格者数を維持することによる弊害を放置することはできない。
5 よって、当会は、政府に対し、弁護士人口の急増を避け緩やかな増加にとどめるべく、司法試験合格者数を年間1500人程度から更に減員することを求めるとともに、弁護士の供給過多の問題も含め、司法制度が適切に機能し続けるよう不断の現状分析と必要な対策を行っていくことを求める。
2025年(令和7年)3月13日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 藤 田 祐 子