国際刑事裁判所(ICC)の独立・公正な活動の尊重を求める会長声明
国際刑事裁判所(International Criminal Court: 以下「ICC」という)は、20世紀の二度の世界大戦において、多数の人々が残虐な行為の犠牲となったことを受け、4つの「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」すなわち集団殺害犯罪(ジェノサイド罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪について、その責任を有する個人に対して刑事責任を追及するための常設の国際司法機関であり、2002年7月、オランダのハーグに設立された。
ICCは、国際正義の永続的な尊重及び実現を保障するための組織であり、2025年現在の加盟国・地域は125を数える。日本は2007年10月に、ICCに加盟し、これまで3名のICC判事を送り出し(ICCの現在の所長である赤根智子氏もその一人である)、また、最大の分担金拠出国となるなど、ICCに対し人的・物的貢献を行ってきた。
しかし、近時、ICCの権限行使に対して、ICC非加盟国の政府が報復的な措置を実施する事態となっており、ICCは深刻な危機に直面しているといえる。
まず、ロシアは、ウクライナに対する軍事侵攻に関連して、ICCがプーチン大統領らに逮捕状を発付(2023年3月17日)したことに対し、ICCの検察官及びICC予備審判部の複数の裁判官に対して逮捕状を発付した。
また、ガザにおける武力紛争に関連して、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を発付(2024年11月21日)したことに対し、米国は2025年2月6日、ICCの職員などに対する米国への入国禁止処分や資産凍結等の制裁を科す大統領令を発した。
この大統領令に対して、赤根所長は「ICCの独立性と公平性を損なうもので、深い遺憾の意を表明する」と声明を発し、英仏独など加盟79カ国・地域も米国に対して「法の支配を脅かす」と非難する共同声明を発表した。にもかかわらず、日本政府はこの共同声明に加わらなかった。
日本国憲法が定める国際協調主義(前文、98条2項)に従うべき日本政府が、上記共同声明に加わらず、独自の声明を発出すること等も行っていないことには看過できない問題がある。
ロシアや米国の上記のような措置は、報復的なもので、ICCの独立性を脅かすものである。これによって、ICCの司法判断の実効性が著しく損なわれる前例を作ってしまうとすれば、ジェノサイド等の最も深刻な国際犯罪の処罰や被害者の保護は困難となり、国際的な司法秩序の維持、ひいては国際平和の実現は今後さらに遠のいていくこととなる。
当会は、国際社会における司法の独立及び法の支配の尊重のため、ICC及びその関係者の職務執行に対しての干渉、妨害などの不当な圧力に強く反対するものであり、日本政府に対し、①ICC加盟国として、ICCの独立した司法判断に対する支持を表明し、これを尊重することを対外的に宣明すること、②ICC関係者への制裁等、ICCの独立、公正かつ誠実な職務継続性を阻害するあらゆる妨害、脅威、圧力に対して明確に反対する立場を宣明し、既に発動された制裁措置を撤回させるよう、また、新たな制裁等が発動されないように各国に働きかけること、③今後ともICCに対する人的・物的支援を拡充し、その活動をさらに支えること、の3点を求める。
2025年(令和7年)5月22日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 千 葉 晃 平