改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
わが国では、消費者金融の利用者が1000万人を超え、自己破産者数が年間20万人以上、経済・生活苦での自殺者が年間7000人前後で推移するなど、多重債務が深刻な社会問題となった。これを解決するため、2006年12月に、改正貸金業法が成立し、出資法の上限金利の引下げ、年収の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)等が、本年12月から来年6月にかけて完全施行される予定となっている。
改正貸金業法が成立した後、政府は多重債務者対策本部を設置し、同本部において多重債務相談窓口の拡充、セーフティネット貸付の充実、ヤミ金融の撲滅、金融経済教育等を柱とする多重債務問題改善プログラムが策定された。これを受けて宮城県は、宮城県多重債務問題対策会議を立ち上げ、行政と民間団体が連携して多重債務相談に取り組む等の対策を開始した。また、県内の自治体でも、栗原市は「いのちを守る緊急総合対策」の一環として、当会と連携した多重債務者の無料相談等を企画・実施し多重債務問題対策に力を入れている。当会も、多重債務事件の当番弁護士制度や無料法律相談を実施するとともに、県内の民放各社を通じてテレビコマーシャルを放映するなど、積極的な対策を講じている。
このような一連の流れの中で、多重債務者の数は大幅に減少し、ピーク時である2003年に全国で年間約24万件あった自己破産申立の件数が、昨年は13万件を下回った。また、宮城県内(仙台地裁管内)においても、2003年の自己破産申立の件数は年間約5500件であったのが、昨年は約3000件となっており、上記のような多重債務対策の成果は着実に上がっているものと評価することができる。
これに対し、消費者金融の成約率が低下しており借りたい人が融資を受けられなくなっているとか、昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより資金調達が制限され中小企業者の倒産が増加しているなどといった点を強調して、改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調も見受けられる。
しかし、上記のような資金需要に対しては、高利の貸金業者による融資ではなく、多重債務者対策本部が課題とするセーフティネット貸付の充実等により対応すべきであり、改正貸金業法の完全施行を先延ばしすることや、金利規制などの貸金業者に対する規制を緩和することは、法改正前のような深刻な多重債務問題を再燃させることになりかねない。
そもそも、上記のように多重債務対策の成果は着実に上がっているとはいえ、自己破産申立の件数が年間10万件を超えている現状等からすれば、多重債務問題が未だ深刻な状況にあることは明らかである。したがって、現段階で必要なことは、法規制の緩和ではなく、多重債務相談体制の拡充、多重債務問題改善プログラムの実施等、貸金業法改正をふまえた諸施策の具体化に他ならない。
そこで、当会は、改正貸金業法施行時期の延期を求める論調に強く反対するとともに、地方消費者行政の充実をはじめとする諸施策により多重債務者救済を図るべく、国に対し、以下の各事項を実施することを要請する。
1 改正貸金業法を、早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2 自治体の多重債務相談を支援する予算措置(相談員の人件費を含む)を講じること等により、地方の相談窓口の充実を推進すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融の摘発に全力を注ぐこと。
2009(平成21)年9月16日
仙台弁護士会
会 長 我 妻 崇