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平成24年3月14日「被災マンションの復旧・復興に関する提言」

2012年03月19日

被災マンションの復旧・復興に関する提言

                                              2012年(平成24年)3月14日

                                        
           

                         仙 台 弁 護 士 会 
                                                            会 長 森 山  博

第1 提言の趣旨

 1 少なくとも震災等の非常時には、一定の被害を受けたマンションについて、特別多数決によって区分所有関係の解消を適時可能とする制度の創設を検討するよう求める。
 2 マンション管理組合に対して、直接支援金を交付する制度の創設を求める。
 3 国及び地方自治体において、被災マンションの管理組合に対して専門家を派遣する等の支援制度及び管理組合が専門家を活用する際の助成制度を創設することを求める。
 4 国及び地方自治体において、マンション管理組合の地震保険の加入率向上に向けた法制度または施策を実施するよう求める。
 5 地震保険法・同施行令及びこれに基づく普通保険約款について、以下の見直しを求める。
   ①たとえば、「半損」と「一部損」の中間の被害区分を設けるなどして、「全損」「半損」「一部損」という被害区分をより細分化すること。
   ②損害の認定基準を明確にするとともに、認定プロセスの十分な情報開示を制度化すること。
   ③主要構造部に限らず、非構造材や設備の損傷についても被害認定の対象に含めること。

第2 提言の理由
1 はじめに
  東日本大震災における宮城県内のマンション被害は、社団法人高層住宅管理業協会の調査によると、中破23件、小破249件、軽微776件、被害なし113件とされている。
  幸いにも人命に関わる被害はなかったが、多くのマンションで非構造壁のせん断、ドアの損壊もしくは変形、タイル・パネル等の剥落、エクスパンションジョイント部の破損等、生活に支障が生じる被害を受けており、何らかの被害を受けたマンションの割合は約9割に及んでいる。深刻な被害により取り壊しが決められたものも数棟あると言われている。
  マンションは区分所有者の私有財産ではあるが、数十~数百世帯が共同で生活する場であり、生活設備も共用するなど、多くの住民の生活を直接的に支える基盤となっている。
  被災時においても、被災マンションの集会室が仮の避難所的な役割を果たしたり、住民間における交流や情報交換、安否確認が精神的な支えになった事例もあるといわれており、いわば、マンション自体が一つのコミュニティを形成していると言っても過言ではない。
  他方で、多くの住民が共同で生活するがゆえに、合意形成が困難であったり、時間がかかる場合や、補修等の費用が多額になることも多く、個人所有の住宅の復旧と比して、困難な問題が生ずる。
  しかしながら、現行の法制度においては、必ずしも被災マンションの復旧に適合した法制度となっていないものが少なくない。東日本大震災から1年が経過した今になっても、復旧が進んでいない被災マンションも少なくないのが現状である。
  そこで、当会は、震災復興におけるマンション法制について、下記のとおり提言をする次第である。
2 提言
(1)建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)に関する提言
  ア 区分所有法では、マンションの一部が滅失した場合について、その滅失の程度に応じて小規模滅失と大規模滅失に区分し、前者の場合には区分所有者の頭数及び議決権の各々過半数により、後者の場合には各々4分の3以上の多数により復旧の決議を行うことができると規定されている。また、再建・建替えについては、各々5分の4以上の多数の決議で行うことができると規定されている。
    しかし、今回のような大震災等により被災したマンションでは、マンションを復旧ないし再建・建替えすることは、必ずしも選択肢として合理的でない場合もある。すなわち、敷地に大きな損傷を受けたマンションや、津波等の被災を受けたマンションでは、当該敷地に建物を再建・建替えすること自体を望まない区分所有者も多く、また、費用等の問題から再建・建替えを選択できない区分所有者も少なからずいるところである。
    かかる深刻なダメージを受けたマンションでは、解体や敷地売却によって区分所有関係の解消を図ることが合理的な選択肢である場合もあり得ると考えられるが、現行の区分所有法には解体・敷地売却に関する規定がなく、解体や敷地売却をするには、区分所有者の全員の合意が必要であるため、1人でも反対者がいると合意形成が困難になったり、時間がかかることとなり、被災マンションが棚晒しのままとなってしまう問題が生じる。
    区分所有関係解消に関する規定がないことは区分所有法の1つの問題点としてかねてより指摘されているところではあるが、今回の被災によって、その問題がより一層顕在化したと言える。
  イ そこで、少なくとも震災等の非常時には、一定の被害を受けたマンションについて、特別多数決によって区分所有関係の解消を適時可能とする制度の創設が検討されるべきである。
    この点、多数決によって区分所有関係の解消がなされる場合、決議に賛成しない区分所有者は自己の意思に基づかずに所有権を失うおそれがある。
    しかし、例えば、区分所有法では、大規模滅失以上の復旧決議の場合にも、決議に賛成しなかった区分所有者は他の区分所有者へ買取請求できる一方で、復旧決議を甘受しなければならないとされているなど、所有権の絶対性はそもそも一定の制約を受けている。従って、非常時に一定の多数決による区分所有関係の解消を認めるとしても、区分所有者に対する過度の不利益とは言えないと考えられる。
    一つの例としては、大規模滅失以上の被災マンションについて、相応の特別多数決(少なくとも再建・建替えに要する5分の4以上)によって、解体や敷地売却が可能とする制度の創設を検討すべきである。
(2)生活再建支援金、応急修理制度に関する提言
  ア 被災した住宅に対する主な支援制度としては、被災者生活再建支援法に基づく被災者生活再建支援制度、災害救助法に基づく住宅の応急修理制度があるが、いずれの制度も、各区分所有者が管理主体となる専有部分と、管理組合が管理主体となる共用部分とがあるマンションの特殊性にまで配慮した制度設計はなされていない。
    そのため、マンションの復旧のために上記支援制度を利用する際には、次のような弊害がある。
   ①被災者生活再建支援金(加算支援金)
    共用部分の補修についても加算支援金の請求が可能とはされているが、管理組合が加算支援金の申請をすることや同支援金の管理組合口座への直接送金は不可とされているので、多数の区分所有者を抱えるマンションにおいては、一度各区分所有者に加算支援金の申請をしてもらい、各区分所有者が受領した加算支援金を管理組合の口座へ送金してもらうといった方法で集金せざるを得ず、迅速かつ適切な復旧対応が困難となっている。
    また、専有部分に賃借人がいる場合には、加算支援金の申請権者は賃借人であるのに対し、補修を行うのは区分所有者及び管理組合であり3者の権利関係が複雑になりかねない。
   ②災害救助法による住宅の応急修理制度
    平成23年6月30日付厚生労働省通知により応急修理制度の適用範囲の拡大が行われ、共用部分の補修についても同制度を利用できるようにはなったが、共有部分を複数世帯で補修する場合に、応急修理制度を利用できる対象世帯は、修理箇所を日常的に使用する世帯に限定されている(たとえば、エレベーターの修理を例にとれば、2階以上に住む世帯分の応急修理制度が利用できるに過ぎない)。
    また、当該世帯が、応急修理制度の限度額(52万円)まで専有部分の修理に同制度を利用している場合、共用部分への同制度の利用は不可とされている。
    さらに、上記のとおり、共用部分の修理毎に、応急修理制度を利用できる世帯が異なるため、本来であれば共用部分の工事全体を一体として請負工事契約を締結すれば良いところ、工事箇所毎に工事請負契約を締結するといったように、契約を細分化しなければならないという極めて不合理な対応を余儀なくされるため、同制度は共用部分の修理に利用し難いものとなっている。
    加えて、応急修理制度の申請は、管理組合が区分所有者を取りまとめて行うこと自体は可能とされているが、「半壊」の判定を受けた世帯は、同制度の利用に際して収入要件が設けられているので、管理組合に対して、世帯収入に関する資料を開示しなければならず、プライバシー情報の開示を強要されるに等しい弊害も生じている。
  イ 上記各弊害を排除し、地域社会におけるひとつのコミュニティーを形成している被災マンションの円滑な復旧を果たしていくために、管理組合を支援対象とする制度の創設が極めて有用である。
    したがって、管理組合に対して、直接支援金を交付する制度の創設を強く求めるものである。
(3)専門家による支援制度、助成制度の創設に関する提言
   マンションは戸建て住宅とは異なり、区分所有という概念が用いられ、さらに専有部分と共有部分が混在するなど権利関係が複雑である。他方で、マンション管理組合や理事会の構成員は、マンションの法規制や特殊性について十分な知識を有していないことも多い。
   しかも、震災後の復旧に際して個々の被災マンションが抱える問題は千差万別であり、建替えや補修に多額の費用がかかることもあって、区分所有者あるいは居住者相互の意見・利害の対立が顕在化しやすい。
   実際、当会が実施した法律相談においても、被災マンションに関する相談が多数寄せられており、建築士会やマンション管理士団体等が実施した相談会にも同様に相談が寄せられているとのことである。
   被災マンションの復旧に際しては、区分所有法等の法令に関する専門的知見、建築についての専門的知見、マンションの適切な管理運営についての専門的知見等、専門家(弁護士・建築士・マンション管理士等)による支援が必要である。
   そして、限られた敷地に多くの住民が居住し、ライフラインや住環境を共有しているマンションはそれ自体が一つのコミュニティであり、戸建て住宅とは異なり公共的要素を有しているともいえる。
   したがって、被災マンションについて国及び地方自治体が専門家の支援制度、助成制度を整備することは喫緊の課題といえる。
   そこで、マンションの復旧を迅速かつ適切に行うために、国及び地方自治体において、被災マンションの管理組合に対して専門家を派遣する等の支援制度及び管理組合が専門家を活用する際の助成制度を創設することを求める。
(4)地震保険に関する提言
  ア 地震保険の加入率向上に向けた法制度または施策
       被災マンションの区分所有者間で復旧方法を巡り合意形成ができないもっとも大きな要因は、復旧費用の負担にある。
       しかしながら、多くの管理組合では修繕積立金等の蓄積が十分でないのが実情であり、管理組合が地震保険に加入していたことによって復旧費用を地震保険金で賄うことができ、合意形成がスムーズに進んだケースは少なくない。
       このように、マンション管理組合が、地震対策として、地震保険に加入しておくことが有用であることは明らかである。
       この点、マンション管理支援ネットワークせんだい・みやぎの行った分譲マンションの被災状況に関するアンケート調査の結果によれば、アンケート調査に回答した管理組合のうち78%が平成23年3月11日時点で地震保険に加入していたと回答しており、地震保険が修繕積立金とともに復旧工事費用の資金調達の中心となっていることが認められる。他方で、全国的には地震保険の加入率は宮城県ほど高くはない。また、近時の各種調査報告等によれば、現在は大規模な地震が発生する可能性は広範囲に及ぶとも指摘されているところである。
       仮に大都市圏で大地震が発生した場合には、マンションの区分所有者間で復旧を巡る紛争が多数発生し、被災マンションの復旧は今回の震災以上に困難となることが予想される。のみならず、損傷の程度が大きいマンションが資金を巡る合意形成の困難さから長期間放置されるようなことがあるとすれば、住民の身体生命の危険のみならず近隣市民にとっての社会的な危険をもたらすことにもなりかねない。
       以上より、早期復旧、紛争予防、社会的危険除去の見地から、特にマンションにおいては地震保険への加入が望ましいと考えられるので国や地方自治体において、マンション管理組合の地震保険の加入率向上に向けた法制度または施策を実施するよう求める。
  イ 地震保険法・同施行令及びこれに基づく普通保険約款の全般的な見直し
    地震保険は国が制度設計をし、損害保険会社が運営をしているものであるところ、損害の認定については地震保険法及び同施行令で定められている。これによると、建物の主要構造部である軸組(柱、はり等)、基礎、屋根、外壁等が対象とされ、その損害の額が、その建物の時価額の50%以上になった場合に「全損」、20%以上50%未満になった場合「半損」、3%以上20%未満になった場合「一部損」と認定され、支払われる保険金額は「全損」で地震保険の保険金額の100%、「半損」で保険金額の50%、「一部損」で保険金額の5%とされている。
    しかしながら、上記の認定基準によると、建物の主要構造部の損害額がその建物の20%であれば保険金額の50%が支払われるのに対し、損害額が19%にとどまれば保険金額の5%しか支払われないことになり、損害額に1%の差異しかなくても、支払われる保険金額には大きな差異が生じる。特にマンションの場合には、補修等の費用が多額になり、かつ、区分所有者間の合意形成が困難なことから、地震保険の保険金がいくら支払われるかが速やかな復旧のための重要な判断要素となっており、上記のように僅かな被害の差に対して保険金額の差が大きいことについては被災者の不満が大きい。
    また、認定基準そのものが明確でなく、しかも、認定に際し十分な情報開示もなされないことから、被災者からは認定に対する不満・不信の声も聞かれるところである。
    さらに、そもそも、主要構造部以外の非構造材や設備(非構造壁、扉、受水槽・エレベーター・ポンプ等)に大きな被害が生じても、建物の主要構造部等の損傷ではないことから、「一部損」すら認定されないこともある。特にマンションにおいては、建物の規模も大きく、多くの居住者が共同で利用することが想定されているため、非構造材や設備が戸建て住宅よりも多くなり、かつ、共同で利用しているために被害の影響も大きい。実際に今回の震災ではそれらについての損害が多数報告されていることは前記のとおりである。
    以上のことから、地震保険法・同施行令及びこれに基づく普通保険約款について、以下の見直しを求める。
   ①たとえば、「半損」と「一部損」の中間の被害区分を設けるなどして、「全損」「半損」「一部損」という被害区分をより細分化すること。
   ②それぞれの認定基準を明確にするとともに、認定のプロセスの十分な情報開示を制度化すること。
   ③主要構造部に限らず、非構造材や設備の損傷についても被害認定の対象に含めること。

以 上

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