被災地の地方自治体が早期に公契約条例を制定することを求める会長声明
1 国や地方自治体が,契約という形で,公共工事を発注したり,様々な公的な業務を委託するなど,権力作用によらず,民間企業や民間団体などと締結する契約を公契約という。
こうした公契約において,業務を遂行する労働者が多数存在するところ,近時,競争入札方式に伴う競争激化や重層的な下請構造などから,事業者が必要な経費や利益を確保するため,現場で業務に直接従事する労働者にしわ寄せが行き,官製ワーキングプアとして,そうした労働者の賃金をはじめとする労働条件の劣悪さが社会問題となっている。
2 こうした問題に対処するため,全国の地方自治体が,公契約に基づく業務に従事する労働者について,法令等の最低基準よりも有利な労働条件となる条項を公契約中に定めることを義務付ける条例(公契約条例)を制定する動きがはじまっている。千葉県野田市では2009年9月29日に全国で初めて公契約条例を全会一致で成立させ,2010年2月に施行となり,清掃委託業務に従事していた労働者の賃金は1時間あたり101円も上昇した。また,川崎市議会においても,2010年12月15日に公契約条例を全会一致で成立させ,2011年4月から施行されている。他の地方自治体においても,公契約条例の制定への動きが見られるところである。
3 今日の経済情勢のもとでは,最低賃金法による最低賃金額の大幅引上げには,条件整備の面で一定の時間を要すると言われているなかで、公契約条例の制定によれば,一時的なコストは上がるものの,中小企業の経営を圧迫させずに労働者の適正な賃金を確保することができ,地域経済の活性化に資する。このことは、安全かつ良質な公共サービスを提供するために、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保等に努めるものと規定する公共サービス基本法11条の規定にも合致するのみならず、住民の福祉の増進を図ることを地方公共団体の責務と定めた地方自治法1条の2の要請にもかなう。
4 東日本大震災が発生してから1年が経過したが,被災地では,東日本大震災の復旧・復興工事も本格化する中,復興事業に従事する労働者が,劣悪な労働条件を強いられる事態は避けなければならない。また,被災地が今後順調に復興していくためには,被災地の労働者の賃金の底上げがなされ,地元中小企業の経営の安定を図り,地域経済を活性化していく必要がある。
今,被災地にこそ,早期に公契約条例が制定されなければならない。
5 よって,当会は,公契約に基づく業務に従事する労働者の適正な労働条件を確保し,地域経済を活性化し,被災地が順調に復興していくため,被災地の各地方自治体に対し,早期に公契約条例を制定することを求める。
2012年(平成24年)3月14日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 森 山 博