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共謀罪の新設に反対する会長声明

2015年03月12日

政府は2015年(平成27年)1月14日,犯罪の謀議に加わる行為を処罰する「共謀罪」の創設を柱とする組織犯罪処罰法改正案について,通常国会への提出を見送る方針を固めた。しかしこれは,集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案の審議を優先するためであり,同法案の国会通過の目途がつけば,共謀罪法案が国会に提出される可能性が高い。最近発生したフランス紙襲撃テロ事件やシリア日本人人質事件を受けて,共謀罪の創設論が早い段階で再燃することも予想される。

「共謀罪」とは,犯罪の実行行為がなくとも合意をしたというだけで処罰するものである。しかし,近代刑法の大原則は,犯罪の意思だけでは処罰せず,それが具体的な行為として外部に現れた際に初めて処罰の対象とするものである。準備以前の,合意のみで処罰するという共謀罪の新設は,上記の大原則に反するものである。また,共謀罪の構成要件も,何をもって「共謀」とするのかが全く明確ではない。このような共謀罪が新設・施行された場合は,国民の言論の自由・集会の自由・結社の自由等に対する多大な萎縮効果を及ぼすことは明らかである。実際に,これまで政府により主張された共謀罪の対象は,法定刑が長期4年以上の懲役または禁固にあたる犯罪全てに及び,600を超える共謀罪を新設するもので,市民生活に制約を及ぼすことは疑いなく,上記のような基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれは極めて高い。

政府は,テロ組織やマフィアなどの犯罪集団による国際的犯罪に対応するため共謀罪の創設が不可欠であり,テロ組織根絶を目指すFATF(テロ資金根絶を目指す政府間組織「金融活動作業部会」)からも,2000年(平成12年)12月に日本国が署名した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(国連越境組織犯罪防止条約)を批准するための国内法整備を要請されており,そのためにも共謀罪が必要である,と説明してきた。

しかし,広範な犯罪類型に関しての一般的な法律の形式での共謀罪立法は必要ない。すでに現行法上,刑法をはじめとする個別の法律において,内乱予備罪,外患誘致陰謀罪,私戦予備罪,殺人予備罪等,テロと関連しうる各種の予備罪が定められており,テロ行為に関しては未遂に至らない予備または陰謀の段階での犯罪を処罰しうるのである。したがって,国連越境組織犯罪防止条約を批准することは現行法制下においても十分に可能なのである。テロ犯罪撲滅の必要性を否定するものではないが,そのために共謀罪を新設する必要性は全くないのである。

当会は,これまで2005年(平成17年)7月,同年10月,及び2006年(平成18年)5月にそれぞれ共謀罪に反対する会長声明を発しており,2006年(平成18年)5月の会長声明においては,捜査機関が共謀事実の捜査名目で一般市民の会話を傍受したり,電話や電子メールのやり取りを監視したりする社会の到来に対する危惧を表明している。しかし,現在,通信傍受法についても対象犯罪の拡大や手続の簡略化など,捜査機関の権限強化が図られようとしている。共謀罪と改正通信傍受法が成立することになれば,両者が相まって,平穏な市民生活が脅かされる危険が生じることは必然である。

共謀罪は,今後,構成要件に修正を加える等して,法案として国会に提出される可能性が高い。しかし,いかに修正し,必要性を強弁したとしても,上記の通り「共謀罪」は本質的に近代刑法の大原則に反しており,一般市民の基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすものである。

よって,当会は,あらためて,この共謀罪の新設に強く反対する。

 

2015年(平成27)年3月12日

                    仙 台 弁 護 士 会

会長 齋 藤 拓 生

 

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