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平成14年5月15日会長声明

2002年05月15日

「有事法制」法案に反対する会長声明

 現在国会で「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(以上を有事法制3法案という)が審議されている。 政府与党は、今国会でこれらの法案を成立させる構えを示している。

 しかし、有事法制3法案は、以下に述べるような極めて重大な問題点と危険性を有している。また、国民への事前の十分な説明と国民的議論がなされないままに審議がなされている。 これらのことから仙台弁護士会は、この3法案に反対の意思を表明するものである。

 

 第1に、「武力攻撃事態」法案では「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており、その範囲・概念は極めて曖昧である。 政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能であり、しかも、国会の承認は「対処措置」実行後になされることから、政府の認定を追認するものとなるおそれが大きい。

 

 第2に、いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定がなされると、陣地構築・軍事施設・軍事物資確保等のための私有財産の収用・使用、軍隊・軍事物資の輸送、軍事施設の建設、戦傷者の治療等のための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済等の市民生活・経済活動の規制がなされることになる。 これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理を変質させる重大な危険性を有する。

 

 第3に、曖昧な概念の下で拡張された「武力攻撃事態」における自衛隊の行動は、憲法の定める平和主義の原理、憲法9条の戦争放棄、軍備及び交戦権の否認に抵触するのではないかとの重大な疑念が存在する。 またいわゆる「周辺事態法」と連動して、米軍が主体的に関与する戦争あるいは紛争に我が国を参加させることにより、日米の共同行動すなわち個別的自衛権の枠を超えた「集団的自衛権の行使」となって、周辺諸国から我が国が対外的脅威とみなされるおそれがある。 このことが、我が国に対する攻撃を招く危険性を生じさせることにさえなる。

 

 第4に、武力の行使、情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し、その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは、行政権は内閣に属するという憲法規定と抵触する。 更に、内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置の直接執行権は、地方自治の本旨に反する。 この法案は、内閣総理大臣に強大な権限を付与するものであり、憲法が定める民主的・権力分立的な統治構造・地方自治制度を変質させるものである。

 

 第5に、日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし、これらに対し、「必要な措置を実施する責務」を負わせ、内閣総理大臣が、対処措置を実施すべきことを指示し、実施されないときは自ら直接対処措置を実施することができる。 これは、政府が放送メディアを統制下に置き、市民の知る権利、メディアの権力監視機能、報道の自由を侵害し、国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。 最後に、この法案は、法律施行後2年以内に有事法制の整備を総合的かつ効果的に実施することを国会に義務付けており、戦前の国家総動員体制と類似する国家体制を生じさせるおそれがある。

 

 このような重大な問題点を含む有事法制3法案が、その具体的内容が事前に国民に知らされることなく、したがって国民的議論が尽くされることもなく今国会に上程され、審議されていることは、国民主権に基づく民主的手続の点からも重大な問題を含むものであり、性急・拙速といわざるを得ない。 また、この間の国会における審議においても、「武力攻撃事態」の概念についての政府の説明に不統一がある等、上記にあげた種々の問題点が解明されたとは言い難い状況にある。

 以上の危険性及び手続き的問題点に鑑み、仙台弁護士会としては、有事法制3法案に反対し、同法案を廃案にするように求めるものである。

 

2002年(平成14年)5月15日

仙台弁護士会会長   犬 飼 健 郎

 

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