1,政府は、本年3月18日『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案』(以下本法案という)を国会に上程した。
2,本法案は、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ及び傷害の行為(対象行為)を行い、心神喪失または心神耗弱を理由として、不起訴処分にされた者、あるいは無罪または刑を減軽する確定裁判を受けた者について、「継続的な医療を行わなくても再び対象行為を行うおそれが明らかにないと認める場合」を除き、検察官は原則として地方裁判所に審判を求め、裁判官と精神科医である精神保健審判員が「医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認める場合」には、決定により入院もしくは通院させて治療を受けさせるというものである。
3,しかし、「再び対象行為を行うおそれ」とは、精神保健福祉法での本人の治療目的の医学的判断である『自傷他害のおそれ』とは全く別種の判断で、いわば『再犯のおそれ』にほかならない。 再犯の危険性予測を客観的に行うことは医学的にも極めて困難とされているのに、本法案では、それを理由として無期限の強制入院等を可能とするもので、精神障害者の人権上看過できない危険性を有しているものである。 また、本法案は、事実の認定、責任能力の有無の認定に際し、憲法31条以下の適正手続の保障を認めていないなど、重大な問題をはらんでいる。
4,そもそも精神障害者による犯罪行為にあたる事件の発生率は高くはなく、再犯率は極めて低いといわれている。 時として起こる不幸な事件の多くは、治療が中断したり、適切な治療が受けれられなかったという事態の中で生じているものであり、地域における精神医療の改善・充実、福祉と連携して人権に配慮した地域精神医療体制の確立こそ必要とされているものである。
5,しかるに、本法案は、精神障害者に対する適切な医療を保障するというより、精神障害者を特別に危険視して、精神障害者を社会から隔離することにつながる危険があるもので、従前当会が強く反対してきた保安処分と実質的に同様、社会防衛のために精神障害者の人権を危険にさらすものといわざるをえない。
よって、当会は、本法案に強く反対するものである。
2002年(平成14年)4月25日
仙台弁護士会会長 犬 飼 健 郎