少年法改正法案に対する会長声明
『少年法を一部改正する法律案』(以下「本法案」という)は昨年(1999年)3月10日に国会に上程されたものの、日弁連や国民の反対運動の中で、衆議院法務委員会で継続審議となってきた。
しかし、今年2月のいわゆる草加事件の民事裁判に関する最高裁判所判決を契機として審議再開の動きがあり、同法務委員会でいつ審議が開始されるかわからない状況になっており、本法案が可決される危険性も出てきている。
仙台弁護士会は、本法案については、そのもととなった法制審議会少年法部会での法務省からの要綱骨子試案や、同試案に添った法制審議会の答申の段落から、その内容となっていた検察官の審判への関与、観護措置期間の延長、裁定合議制の導入等について、少年の保護育成という少年法の理念を変容する恐れがあるとして、反対の意思を会長声明(1998年12月8日)や定期総合決議(1999年1月30日)において表明してきた。 また、その後も、日弁連少年司法改革対策本部の呼び掛けに応じて、市民集会を開催したり、反対の請願署名に取り組んだり、国会議員に対する要請行動を行なう等反対運動に取り組んできた。
ところで、本年2月に最高裁判所はいわゆる草加事件の民事賠償裁判において、少年らを犯人とした東京高等裁判所の判決を破棄し、事実上少年達の無罪を全面的に認めた。
草加事件の誤判の原因は、当初から無罪を示す物証があったのに虚偽自白を強要したこと、その物証を少年法の規定に反して家庭裁判所に送付しなかったこと、自白と物証の矛盾があった後も検察官が警察の捜査の誤りを糊塗しようとしたことなど、大人の冤罪事件と同様、捜査官の自白偏重の姿勢や証拠隠し等捜査のあり方にあったものである。
本法案による少年法改正の目的として、「少年裁判における事実認定手続の一層の適正代を図る」ということがあげられているが、誤判を防止するためにまずなすべきことは捜査の適正化であり、また審判を少年法の理念にのっとって運用することというのが、草加事件の教訓のはずなのである。
草加事件で、少年審判と民事裁判で結論を異にしたことを理由として、少年法改正案の成立を急ぐことは、問題の本質を見誤るものであり、本法案により現在の職権主義構造下において検察官が立会い、観護措置期間が延長され、あるいは多数の裁判官に囲まれたなかで審判が行われる事になれば、少年はますます口を閉ざし、少年の保護育成に反することはもちろん、何ら事実認定の適正化に資することにはならないものである。
よって、当会としては、改めて本法案に反対の意思を表明する次第である。