1 政府は、2019年12月27日、日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集活動を行うとして、護衛艦1隻及びP3C対潜哨戒機を中東アデン湾等へ派遣することを閣議決定(以下、「本閣議決定」という。)し、本年1月10日、本閣議決定に基づいて派遣の実施を命令した。本年2月26日には、防衛省から、中東に派遣した海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」がアラビア海北部で情報収集活動を始めたと発表されている。
2 今回の派遣は、防衛省設置法第4条第1項第18号「調査及び研究」の規定に基づくものであると説明されている。
しかし、日本国憲法前文及び第9条の戦争の放棄(同条第1項)、戦力の不保持・交戦権の否認(同条第2項)の定める恒久平和主義のもとでは、自衛隊の任務及び権限は厳格にとらえられるべきであるが、防衛省設置法第4条は、防衛省の所掌事務を定めた規定に過ぎない。また、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」とされているところ(防衛省設置法第5条)、今般の自衛隊の中東派遣は、自衛隊法にもこれを根拠づける規定はない。加えて、国会の関与なく閣議決定のみで決められており、国会による民主的なコントロールが一切及んでいない。
3 今回の派遣は、米国がイラン核合意を離脱後、ホルムズ海峡を通過するタンカーへの攻撃等が発生していることから、米国がホルムズ海峡の航行安全のために日本を含む同盟国に対して有志連合方式による艦隊派遣を求めてきたことが背景にある。これに対し日本は、イランとの伝統的な友好関係に配慮し、有志連合には参加せずに上記派遣を決定するに至っているが、「諸外国等と必要な意思疎通や連携を行う」とされていることから、武力行使を許容している米国及び有志連合に対して、自衛隊が情報を提供しこれを共有することになる可能性を否定できず、このような自衛隊の活動は、「武力の行使」と一体化するものとして、日本国憲法9条に違反するおそれがある。
また、本閣議決定は、自衛隊による情報収集活動の結果、不測の事態が発生するなど状況が変化し、当該状況への対応として、自衛隊による更なる措置が必要と認められる場合には、自衛隊法第82条の規定に基づき、海上警備行動を発令して対応するとしている。しかし、海上警備行動や武器等防護(自衛隊法第95条及び第95条の2)での武器使用が国又は国に準ずる組織に対して行われた場合には、日本国憲法第9条の「武力の行使」の禁止に抵触し、更に戦闘行為に発展するおそれがある。
この点,本来であれば国会で議論が尽くされるべきところ,政府は国会での批判を避けるために閣議決定のみで自衛隊派遣を決定した。このような前例を許せば,今後,政府は同様の「調査・研究」という手法で,国会による民主的なコントロールがないままに戦闘地域に自衛隊を派遣することが可能となる。
4 よって、当会は、今般,政府が閣議決定のみで自衛隊を中東に派遣することとしたことについて、日本国憲法の恒久平和主義の趣旨に反すること、国民代表である国会での議論を軽視し国民主権をも無視したものであることから,反対するものである。
2020年(令和2年)3月12日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 鎌 田 健 司