1 最低賃金の現状
最低賃金法の目的は「労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与すること」(1条)にある。この目的に沿った最低賃金額が設定される必要がある。
宮城県の最低賃金額は、2021年10月1日に時間額825円から853円に引き上げられた。その前年10月1日にはコロナ禍の影響を受け、1円の引上げに留まっており、それと比べれば大きな引上げであった。
しかし、生活を維持していくことが困難な水準であることに変わりはない。むしろ、ロシアによるウクライナ侵攻や大幅な円安の影響などから物価が上昇する局面になっていることによって、最低賃金の引上げの効果が減じてしまっている。
また、東京都の最低賃金額が1041円であるのに対し、高知県と沖縄県は820円であり、都道府県による格差も、依然として大きなままとなっていることも課題である。このような最低賃金の格差は、人口の転出入に影響を与えるとされており、都市部への人口の集中の解消と地域経済の活性化に逆行するものである。
今後、中央最低賃金審議会、宮城地方最低賃金審議会での答申を経て、最低賃金額が決定されていくことになるが、物価上昇の中でも労働者が生活を維持するに十分な水準となるような最低賃金額の引上げがなされることが必要である。
2 地域間の格差の縮小について
また、都道府県の間に存在する格差についても、解消していくべきである。
中央最低賃金審議会は全国をA~Dの4つに区分して、それぞれに引上額の目安を示してきた。このことが格差を生じさせる原因になってきた。しかし、2020年及び2021年には、中央最低賃金審議会は全国一律の目安額を示し、格差の拡大は抑えられることとなった。
地域別最低賃金額を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差が無いことが明らかになってきている。
以上のことから、都市部と地方の間での最低賃金額の格差を縮小し、できる限り早期に全国一律の最低賃金制度への転換を図っていくべきである。
3 中小零細企業への支援
このような最低賃金の引上げを実現するには、我が国の企業の大半にあたる中小零細企業が、引き上げられた最低賃金を支払うことができる状況を作ることも必要である。
この点について当会が2021年7月29日付け「宮城県の最低賃金額の引上げと中小零細企業への実効的な支援等を求める会長声明」で述べたように、賃金を引き上げた中小零細企業への社会保険料の減免措置や補助金給付制度等の支援策の検討も不可欠である。
4 結論
以上のことから、当会は、(1)宮城地方最低賃金審議会に対し、労働者が生活を維持するのに十分な水準といえる最低賃金額まで引き上げる答申を行うこと、(2)中央最低賃金審議会に対し、都市部と地方の最低賃金額の格差を縮小し、できる限り早期に全国一律の最低賃金制度への転換を図ること、(3)国及び宮城県に対し、賃金を引き上げた中小零細企業への支援策を実施することを求めるものである。
2022(令和4年)年6月23日
仙 台 弁 護 士 会
会 長 伊 東 満 彦